日朝首脳会談 「無条件」で成算あるのか

西日本新聞

 安倍晋三首相が拉致問題解決のため、北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長と「条件を付けずに」首脳会談を行いたいとの意欲を明らかにした。

 大きな方針転換だ。これまで首相は国会で「行う以上は、拉致問題の解決に資する会談としなければならない」と語るなど、拉致問題の進展を会談開催の前提条件にしていたからだ。いわば「拉致問題の進展」を日朝交渉の「入り口」から「出口」に置き換えたことになる。

 背景にあるのは、北朝鮮を巡る国際情勢で、日本が蚊帳の外に置かれている現状への焦りだろう。かつての6カ国協議参加国の首脳で、金委員長と直接会っていないのは今や安倍首相だけだ。トランプ米大統領との親密な関係をてこに、北朝鮮に拉致問題解決を働き掛けようとしたが、やはり「間接外交」では限界があったようだ。

 ただ、安倍首相が金委員長との会談を急ぐ方針に転換したのには、一定の合理性がある。

 北朝鮮と米国の非核化協議は行き詰まっている。北朝鮮は米国との関係が悪くなると橋渡し役を求めて日本に接近する習性がある。首相はそのタイミングを捉えたい思惑なのだろう。

 安倍首相が先月のトランプ大統領との会談で、金委員長の対日姿勢について前向きな情報を示された可能性もある。

 北朝鮮は特異なトップダウン体制の国家であり、事務レベルでの交渉では大事なことは決まらない。首脳同士の直接交渉で打開を図るのは効果的だ。

 不安を覚えるのは「無条件」で臨む会談に成算はあるのか、という点だ。まず会談が実現するのか、会談が実現してもどれだけの成果が期待できるのか、まるで見えてこない。

 北朝鮮は今月4日と9日、ミサイルとみられる飛翔(ひしょう)体を発射した。日米の防衛当局は、この中に短距離弾道ミサイルが含まれていたと断定した。国連安全保障理事会決議に対する重大な違反行為である。トランプ大統領は不快感を表明した。

 北朝鮮の挑発的な行動には、国際社会も態度を硬化させる。そうした中で日本が北朝鮮と首脳会談を行う環境が整うだろうか。会談が実現しなければ、首相の意欲も空回りに終わる。

 安倍政権は北朝鮮との「対話と圧力」のうち、圧力を徹底的に重視する戦略を取ってきた。しかし北朝鮮は制裁下でもしぶとく体制を維持している。

 安倍首相が政権復帰して6年余りたったが、最重要課題に掲げたはずの拉致問題では全く結果を出していない。この際、首相は従来の戦略を総括し、見通しの甘さを反省してから日朝会談を目指すべきではないか。

=2019/05/13付 西日本新聞朝刊=

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