【令和時代が始まった】 徳増 浩司さん

西日本新聞

徳増浩司(とくます・こうじ)さん=ラグビーW杯2019組織委事務総長特別補佐 拡大

徳増浩司(とくます・こうじ)さん=ラグビーW杯2019組織委事務総長特別補佐

◆新たな一歩への契機に

 例年であれば、正月に新たな年を迎え、4月に新しい年度となって気持ちを引き締めるものだが、今年はさらに5月に令和時代が始まり、上半期だけで、3度も新しい気持ちを持つことができた。

 新しい気持ちを持つことは常に大切なことだ。先月、都内にある昭和女子大の新入生を対象に、講演をする機会があった。「グローバルコミュニケーション能力をどう高めるか」という演題だった。同大学の担当の先生方からは「最近の学生は、なかなか新しいことにチャレンジしない傾向があるので、彼女たちの背中を押してほしい」という助言を頂いた。

 講演で説得力を持つのは、何といっても実体験だ。私は、25歳の時に、仕事を辞めて英国渡航を思い立ち、手持ちの現金をかき集めて、生まれて初めて海外に出た。1970年代の半ばは、インターネットはおろか、携帯電話もない時代。動機は、英国のウェールズでラグビーを体験してみたいという単純なものだった。現地で住み込みの掃除人となって経費を浮かし、地元の大学に通うなどして、2年間生活した。

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 そこでの生活から多くを学んだ。英語も学んだが、それ以上に考え方の違いを学んだ。忘れられないのが最初に出場したラグビーの試合。負けたあと、落ち込んでシャワーを浴びているとチームメートが「今日の試合、エンジョイできたか?」と聞いてきた。負けた試合をエンジョイという意味が分からなかった。

 翌週、重いバーベルを上げてウエートトレーニングをしていたら、それを見ていたチームメートがシャワー室で「エンジョイしたか?」と聞いてきた。あの、つらいトレーニングをエンジョイとは…。

 この二つの体験から、いろいろと考えた末、私はやっとエンジョイの意味を理解した。「力を出し切ることによる充実感」なんだと。自分が決めて力いっぱいやることだから、結果に関係なくエンジョイできる。スポーツの原点を知った気がした。

 掃除人をしていた家には、サイモンという7歳男児のお孫さんが遊びに来た。私が日本から持っていったゲームをプレゼントすると、翌週、彼は「コージ(浩司)、これはお土産のお返しです」とポケットから硬貨を取り出した。7歳でも25歳でもファーストネームで呼び合い、あくまで対等の個と個の関係。子どもの頃から個人としての対応の仕方を身に付けていた。

 英国文化圏の人たちと、どういう人間関係づくりをしていけばいいか。こういう体験の一つ一つが、後日、ラグビーワールドカップの日本への招致活動でも、大いに役立ったことは言うまでもない。

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 講演の最後には、こんなエピソードも紹介した。私の主催する渋谷インターナショナルラグビークラブでは、日本と海外の子どもたちが一緒に英語でプレーしている。ある時、日本人の小学5年生の子どもが「僕に全然ボールが回ってこない」「英語でなんて言っていいか分からないよ」と父親に泣きついた。父親は「英語でなくてもいいんだ。日本語でいいから、何でもいいから声を出してごらん」とアドバイスしたという。

 次の試合で「はい!」と声を出すと、すぐにボールが回ってき始めた。コミュニケーションとは、英語力ではなく、まず、相手に伝えようとする気持ちが大切。それがなければ何も伝わらない。

 「人間はやってみて失敗するのが当たり前。失敗もエンジョイしていく気持ちを持とう」。新入生に向けて送った結びの言葉だ。新たな時代の始まりに、一人でも多くの若者が、新しい取り組みへの一歩を踏み出してほしい。

 【略歴】1952年、和歌山県生まれ。国際基督教大(ICU)卒、新聞記者を経てカーディフ教育大留学。帰国後、茗渓学園高ラグビー部を率い全国優勝。95年から日本ラグビーフットボール協会勤務。アジアラグビー会長を経て現在は同名誉会長。

=2019/05/13付 西日本新聞朝刊=

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