大牟田出身、早世の漫画家短編集 異例の9年ぶり重版 遺族奔走 映画も契機

西日本新聞

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重版を果たした短編集「ムルチ」

三隅健さん(母親の山下喜代子さん提供)

 福岡県大牟田市に生まれ、2008年に34歳で亡くなった漫画家三隅健(たけし)さんの短編集「ムルチ」が、異例の重版を果たした。10年に初版本が発行されて以降、独特の作品世界に引き込まれるファンが徐々に増え、発行元の小学館が復刊を決めた。当初はヒットしたわけではない単発の小品が、同じ体裁で増刷されるのは極めて珍しいという。

 触ると1週間で死ぬ不思議な生物「ムルチ」を追う孤独な高校生、心を閉ざした少女が海岸で拾ったガラクタロボットの秘密、わずか2ページで描く人の生死の間にあるもの…。ムルチには、心の闇に葛藤する純真な若者をモチーフにした6編が収められている。

 最初の単行本化は、同社編集者として担当していた神村正樹さん(46)が社内で提案した。「作品のトーンは暗く、曇りのイメージだが、読後はなぜかポジティブな気持ちになる。闇(現実)の中でも一点の光(希望)があるというメッセージが込められているから」。こう評価していた。

 ところが、三隅さんは書籍化の企画を知らないまま早世。突然の死を家族から知らされた神村さんは「ヒット作を目指して頑張ろうと、打ち合わせをしたばかりで信じられなかった」。

 遺作集として初版本が発行されると、三隅さんの母や兄弟は、西鉄電車内に広告を出してPRするなど熱心に営業活動を展開。東京や福岡で原画展も開き、少しずつ販売していった。

 こうした中、「胸を打ち抜かれた」と、作品が目に留まったのが映画監督の瀬木直貴さんだった。大牟田を舞台に製作する映画「いのちスケッチ」(今秋公開予定)では、主人公に三隅さんを重ね合わせ、漫画家を諦めて帰郷する青年をモチーフにした。

 「重版の決め手は瀬木監督の映画。そして何より、三隅君のご家族の活動があったから」。神村さんは、三隅さんの作品世界に、さらに多くの人に触れてほしいと願っている。全国の書店で販売中。885円。

=2019/05/14付 西日本新聞朝刊=

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