日米貿易交渉 「トランプ流」に屈するな

西日本新聞

 日米両政府の貿易交渉がついに始まった。昨年9月の首脳会談で、安倍晋三首相とトランプ米大統領が新しい貿易協定の締結に向けた交渉入りで合意していた。先月中旬以降、茂木敏充経済再生担当相とライトハイザー米通商代表部(USTR)代表が協議を重ねている。

 協定について、昨秋の首脳会談後に出された共同声明は「双方の利益となることを目指す」とうたったが、実際は両国の利害が対立している。厳しい交渉になるのは間違いない。

 当面の焦点は、米国が求める牛肉や豚肉、小麦など農産物の市場開放だ。米国が離脱した環太平洋連携協定(TPP)や、日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)が既に発効し、米国産農産物の競争力は相対的に低下している。来年11月に大統領選を控えるトランプ氏にとって、自身や与党共和党の支持者が多い農家は無視できない。米国はTPP水準以上の関税引き下げを要求している。

 こうした事態を招いたのは「米国第一主義」を掲げ、TPPから一方的に離脱したトランプ氏本人である。その独り善がりな要求に譲歩するようでは、多国間の自由貿易体制を重視する日本の国際的信用に傷が付く。関税の引き下げには限度がある。安易な妥協や譲歩はせず、粘り強くTPP復帰を米国に働き掛けるしかない。

 米国と中国が貿易交渉を巡り追加関税を課す制裁合戦を繰り広げているのも懸念材料だ。トランプ氏は5月下旬に国賓として来日し、6月には大阪である20カ国・地域(G20)首脳会合出席のため再び来日する。こうした機会を捉え、まず対日交渉で成果を出そうと、強硬姿勢に出てくることも考えられる。

 相手国に高い要求を突き付け、2国間交渉で成果を勝ち取るのがトランプ流だ。4月の日米首脳会談でトランプ氏は、農産物の関税を「なくしてほしい」と撤廃を求め、来日する5月下旬の合意に期待を表明した。輸入車への追加関税をちらつかせ自動車分野でも譲歩を迫る構えだ。協定に「為替条項」を加えることにも意欲を示している。

 そもそも米国には、サービス分野などに交渉範囲を広げ、より包括的な自由貿易協定(FTA)を結ぼうとの思惑がある。日本はあえて「物品貿易協定(TAG)」といった造語を持ち出し、予防線を張っているが、防戦一方の印象は否めない。

 日本はできるだけ交渉範囲を広げず、互いが納得する決着点を探るほかない。米国とは安全保障問題や北朝鮮による拉致問題などで連携する必要はあるが、国民生活に影響が大きい貿易交渉では筋を通したい。

=2019/05/15付 西日本新聞朝刊=