ヒロインは組合の闘士 上別府 保慶

西日本新聞

 高度成長期の1961年に平凡社が刊行を始めた「国民百科事典」は、百科事典ブームを巻き起こした。全7巻に索引、地図帳が付いて1万円。図版を多用した見やすさが「子どもの勉強に良い」と、親たちに月賦を組ませた。

 この事典の第7巻、「漫画映画」の項に、東映動画(現・東映アニメーション)の写真グラフが載っている。同年の劇場用アニメ「安寿(あんじゅ)と厨子王丸(ずしおうまる)」の制作風景で、作画の参考用に演技する俳優の写真には、テレビCMの“お父さん犬”の声役、北大路欣也さんの姿も見えて楽しい。

 この作品、運命にもてあそばれて生き別れとなる姉と弟を描く時代劇だが、弟が自らの力で敵役を倒さぬまま、すっきりしない終幕を迎える筋立てに、アニメーターの労働組合は猛反発。現場には、写真グラフには映らない会社との対立感情が渦巻いていた。

 5年後、組合員たちは以前の作品を振り返る文集を残したが「安寿と厨子王丸」の評価はさんざんだった。その中に高畑勲さんや宮崎駿さんとともに組合闘争の先頭に立った執行委員の文章がある。

 後に女性初の作画監督となり、今の朝ドラ「なつぞら」の主人公のモデルとなっている奥山玲子さんだ。「この映画のどこに(時代の矛盾を)克服していく姿があるでしょうか」とけんか腰である。

 奥山さんは仙台市に生まれ東北大教育学部を卒業。57年に東映動画に入った。「なつぞら」でアニメの時代考証を担当する小田部羊一さんは夫で職場の後輩、後にゲームの「スーパーマリオブラザーズ」や「ポケットモンスター」の制作にも携わった人だ。

 当時の小田部さんは引っ込み思案。腕を見込まれて原画担当へ昇格する話が来た時、「僕はまだそんな腕じゃないです」と尻込みする。奥山さんは「アニメーターは原画をやりたい人ばっかりなのに、いい格好するな」と恋人の小田部さんを叱りつけた。

 奥山さんは、朝ドラ前作の主演、安藤サクラさんに似た和風の美貌ながら、男女同権を地で行く剛の人だった。小田部さんによれば「なつぞら」の広瀬すずさんとは、イメージがちょっと違うとか。

 奥山さんは、テレビアニメでは草創期の「狼(おおかみ)少年ケン」「魔法使いサリー」「ひみつのアッコちゃん」をはじめ、東映退社後は「母をたずねて三千里」にも携わった。90年代以後は銅版画作家としても活動し、70歳の2007年5月6日に肺炎で世を去った。

 その若き日の姿は、先輩の大塚康生さんの回顧本「作画汗まみれ」で読める。

 (編集委員)

=2019/05/16付 西日本新聞朝刊=

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