介護人材確保へ「黒子」役走る 福岡市の専任係長 倉員知子さん 行政、福祉職場支援へ本腰

西日本新聞

福岡市の福祉人材係長、倉員知子さん。介護関係の会合では、積極的に出席者とコミュニケーションを取る 拡大

福岡市の福祉人材係長、倉員知子さん。介護関係の会合では、積極的に出席者とコミュニケーションを取る

 介護職と専門学校生の研修会、介護と福祉をPRするイベント…。ここ1年、高齢者福祉の取材に出向いた先で、いつも笑みを絶やさず、会場の脇にたたずむ女性がいる。昨秋、名刺交換すると、福岡市の「福祉人材検討担当」主査、倉員(くらかず)知子さん(46)。求職しても人が来ない、育ててもすぐ辞める-。そんな介護現場の深刻な人手不足を解消しようと、2018年度にこのポストが誕生、たった1人、任を受けたという。

 職員を直接、確保する主体はあくまで事業所側だが、行政側も「黒子」の立場として、福祉人材の確保に本腰を入れ始めている。

 1年以内に再就職

 倉員さんがまず取り組んだのは、事業所側の実態を知ること。毎年国が行う介護労働実態調査の福岡市版として昨年半ば、独自にアンケートを行った。

 回答があった市内708の介護事業所で、直近1年で離職した人の割合(離職率)は正規職員が19・1%、非正規職員が24・5%。それぞれ全国平均より4・3ポイント、6・7ポイント高い水準だった。同じく直近1年で採用した人の割合(採用率)も全国平均を上回った。約5人に1人が1年間に辞め、再就職している計算だ。

 「辞めても就職先はたくさんある、ということ。より条件の良いところを求めて転職する人が多いのでは」(倉員さん)

 裏を返せば、先進的な情報通信技術(ICT)を活用して職場環境を改善し、全国的にも有名な社会福祉法人「スマイリング・パーク」(宮崎県都城市)などのように、地元の同業者にも刺激を与え目標となるような“突出”した事業所が、福岡市内に乏しいことも背景にありそうだ。

 育成は「無駄」か?

 「人の入れ替わりが激しい」事業所の悩みを聞こうと、倉員さんは1年間、実際に足を運んだ。訪れた事業所は50カ所を超す。

 新人を育成しようと研修に手間暇を掛けても、すぐ辞める。定着しないから育成にコストを掛けなくなる。職員はキャリアアップの道筋が見えず、給料も上がらないため、ますます辞める。こうした悪循環に苦しんでいた。

 低収入、重労働とことさら強調されるなど介護全体のマイナスイメージも広がり「福祉に興味がある若者がいても、周りの大人が(就職を)止めるほど深刻だ」との訴えもあった。

 介護保険制度導入時は必要なサービスを供給する事業所を確保するため、社会福祉法人だけでなく、株式会社や医療法人、NPOなどさまざまな民間参入が認められた。

 現在、各種の団体が介護の魅力発信に努めているが、「もともと出身母体のカラーが違うため、業界全体の動きにつながりにくく、浸透しないのでは」と倉員さんは分析する。

 まず「つなぎ役」に

 この4月。倉員さんのポストは「福祉人材係」として計3人のチームに昇格、自身は係長を任された。「人材の確保」を前面に押し出した担当部署は、政令市では珍しいという。

 具体策の第1弾として、本年度は、高齢者福祉にかかわるさまざまな団体とともに介護をPRするイベントを官民一体で企画。モデル事業所を選び、ICTの導入など、定着率の高い職場環境を実現してもらうため、経営者向けの研修なども始める。手本となるような事業所を表彰する制度も検討していく。

 「介護のイメージアップは一事業者では難しい。そういう場づくりやつなぎ役こそが、行政の役割だと思います。労働力人口が全国的に減る中で、いかにこの業界に来てもらうのか、一つでも二つでも、全国的に知られる事業所の『先頭集団』をつくれたら」

 1年間、ともに介護イベントや企画に携わった福岡介護福祉専門学校校長の小笠原靖治さん(47)は「倉員さんは徹底した現場主義。その熱意に介護業界自らが立ち上がらなければと刺激を受けた。行政、事業所側が車の両輪として取り組んでいきたい」と意気込む。同じく福岡福祉向上委員会代表の大庭欣二さん(52)は「1年で信頼関係を築けたが、一つのポストだけでは担えない課題。福岡市の中で横の連携をしっかり取り、一緒に課題に向き合ってほしい」と期待する。

 介護人材不足は1970年代前半に生まれた団塊ジュニア世代が65歳以上となり、高齢者数がピークに近づく2040年まで続くとみられる。官民“手探り”の模索は続く。

=2019/05/16付 西日本新聞朝刊=

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