めんどくさいけどクセになる!「自虐の神」、カレー沢薫の最新エッセイ集

西日本新聞

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『ブスの家訓』カレー沢薫著

 本書は、「マイナビニュース」にて連載中の「カレー沢薫のほがらか家庭生活」のうち、2016年8月29日~2018年8月15日掲載分からまとめられたエッセイ集である。

 まとめるテーマは「実家」「学生時代」「1年」「住まい」「家事」「くらし」と、まるでオシャレ生活コラムニストのようだが、さにあらず。自らを社会の底辺と表す独特な「下から目線」で、自分とその家族の生活を自虐的につづったものだ。

 これが実にやっかいな文章で、最初は面食らうが次第にクセになる。「人の成功が嫌い」というような、誰もが持つであろう毒の部分を臆面もなく全開にしつつ、ネットスラングを多用し、さらに言い回しの妙で畳み掛けていくような感覚なのだ。

 著者の肩書は、漫画家・作家・兼ときどき会社員で最近は無職。無職といっても執筆活動をしているから厳密には無職ではないが、この「無職」というカテゴリーが、彼女にとっての最たるアイデンティティーなのだろう。

 とにかく自称「非リア充」で「コミュ障」。田舎在住、新卒で入った会社を精神を病んで1年足らずで辞め、ほぼ家から1歩も出ず、家事は料理以外ほとんどしない。自分の部屋はゴミ屋敷、ゲーム大好きで課金しまくる日々。

 よく考えると、今の時代、こういう人はいっぱいいるはず。挫折を経験しつつも最低限の社会生活をこなし、ひとりでいるのが何より好きな人。表立ってはわからなくても、実は生きづらさを抱え、現実逃避でバランスをとっている人。

 著者も、一見普通の女性なのではないか。実は著者は、現在会社員と結婚し注文住宅に住んでいる。「負け組」でもなんでもない。夫の実家のBBQにも普通に参加するし、結婚までは毎年家族で遠方へ墓参りに行くような常識人だ。実家も面白おかしく描かれてはいるが、ごく普通の、むしろ恵まれた部類に入る家庭だと思う。

 それでも、普通なら隠したいダークな部分を、最も前面に押しだして自虐として笑いに変える。きっと読者は、普段自分が周囲に馴染めないと感じていても、この文章の中にはさらに上を行く変な人がいる・・・と安心感すら持つはずだ。共感さえも飛び越えるような自分の落とし方だ。

 それゆえ、著者の破天荒ぶりに対し、特に強く否定する様子のない家族たちの優しさが際立つ。たとえ組織に居場所がなくても、家に居場所があれば人間なんとかなる。それを体現している家族エッセイなのだ。


出版社:中央公論新社
書名:ブスの家訓
著者名:カレー沢薫
定価(税込):1,404円
税別価格:1,300円
リンク先:http://www.chuko.co.jp/tanko/2019/04/005183.html

 西日本新聞 読書案内編集部

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