新しい時代につくられる天皇像を考えるための絶好のテキスト

西日本新聞

『天皇は宗教とどう向き合ってきたか』原武史著 拡大

『天皇は宗教とどう向き合ってきたか』原武史著

 読書することの喜びを感じるのは、自分なりに「当たり前」だと思っていて疑いもしなかったことが、けっして「当たり前」ではなかったと知る瞬間だろう。その瞬間からものの見え方がガラリと変わるという経験をすることも少なくない。明治以降の天皇制を研究してきた著者が本書で教えてくれるのも、天皇について「当たり前」と思っていたことが、じつはある種の「思い込み」に過ぎないということである。

 本書が扱うテーマは、書名が端的に示すとおり「天皇と宗教」との関係である。このテーマを見た途端に、天皇家の宗教は神道だろうと決めつけてはいけない。このような「思い込み」から私たちの視点を解放して、あらたな天皇観を与えてくれるのが本書だからだ。あらためて考えてみれば、天皇が「出家」して法皇になったことや、京都には天皇の「菩提寺」があることが知られているように、天皇は仏教と無関係ではなかった。天皇と神道との結びつきは、明治期の神仏分離と国家神道の成立と深くかかわっている「創られた伝統」であって、けっして古来の伝統ではないのだ。

 平成の時代にも、それ以前から引き続き、天皇は外からは知るよしもない宮中祭祀の担い手である。国民との関係でもこの時代の天皇が変わらずにある種の宗教性な存在であることを著者は主張する。ひとつには、2016年8月に天皇みずからが発した退位を表明するメッセージの中で「国民のために祈る」ことが象徴天皇として重要な役割だと述べたことに宗教性が表れているという。国民のために祈るという天皇の姿に、儒教的な「仁」という「君主の徳」を見てとれるからである。儒教でいう「仁」は、君主が民に注ぐ普遍的な愛情の徳であり、「裕仁」「明仁」「徳仁」と天皇の名に「仁」の字が用いられているように、天皇にはこの徳が求められる。平成の時代にあらためてこの儒教的な徳を天皇が具現化することになったのである。

 このたび即位した新天皇・新皇后は新しい時代の象徴天皇像をつくっていくのだろうか。著者は天皇が変わることでスタイルも変わっていくに違いないと予想している。その宗教性や神秘性に変化があるのか、私たち自身が時代の証人として見つめていくことになるに違いない。本書は、これから時代の天皇を見守っていくのに役立つさまざまな視点を提供してくれる恰好のテキストである。


出版社:潮出版社
書名:天皇は宗教とどう向き合ってきたか
著者名:原武史
定価(税込):820円
税別価格:759円
リンク先:http://www.usio.co.jp/books/ushio_shinsyo/19044

 西日本新聞 読書案内編集部

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