父と息子の関係は厄介だ…

西日本新聞

 父と息子の関係は厄介だ。息子は成長するにつれ、大きかった父の背中がちっぽけに見えてくる。父は息子に託した夢や期待がしぼみ、やがて話もしなくなる

▼「小説の神様」と呼ばれた志賀直哉も父と不和だった。きっかけは志賀が18歳の時。足尾銅山鉱毒事件の被害農民に会いに行こうとして父と衝突した。父は高名な実業家で、息子が被害者側に付くのはまずかった

▼ただ、志賀が親となり人生経験を重ねるうち、絡んだ糸はほぐれる。34歳で父と和解。その体験を基にした小説「和解」にこんな漢詩を載せた

▼〈東西南北帰去来/夜深同見千岩雪〉。東西南北帰りなんいざ、夜深くして同じく見る千岩(せんがん)の雪。声に出して読むと、幾星霜を経てようやくたどり着く父子関係の境地を感じる

▼作家の村上春樹さんも父とは絶縁状態だったという。今月、月刊誌のエッセーで明かした。父は戦争で果たせなかった俳人への夢を託したようだが、村上さんは職業作家に。関係は屈折し、20年以上、顔も合わせなかった。亡くなる少し前にやっと90歳の父を病院に訪ね、ぎこちない会話を交わした。痩せこけた父と自分をつなぐ何かを感じ、こんな趣旨の感想を記す

▼われわれは広大な大地に降る膨大な数の雨粒の名もなき一滴にすぎない。だが、一滴の雨水には雨水なりの思いと歴史がある。それを受け継ぐ雨水の責務があるのを忘れてはならない-。金言である。

=2019/05/18付 西日本新聞朝刊=

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