【若者世代の知恵に期待】 宮本 雄二さん

西日本新聞 オピニオン面

宮本雄二(みやもと・ゆうじ)さん=宮本アジア研究所代表、元中国大使 拡大

宮本雄二(みやもと・ゆうじ)さん=宮本アジア研究所代表、元中国大使

◆令和の日中関係

 平成から令和に時代は変わった。街には新しい時代が始まったという気分に満ちあふれ、平和な時代が続いてほしい、幸せになりたいという願望がひしひしと伝わってくる。そのために何をなすべきなのか。それらをどのようにして実現するのか。

 アイデアや試案はある。だが、日本にはそれらをまとめた大きな青写真や長期的プログラムが不足している。優先順位をつけ、立体的な政策を作りあげる作業が足りない。これは政府の仕事であり、政党の仕事であり、知的コミュニティーの仕事でもある。

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 大きな世界の変わり目に当たっては、若い世代が主役を務めるべきだと、しみじみ思う。われわれの世代になると10年という歳月は気がつけば自分の経験と知識の範囲内で判断し行動している。ある意味で同じことの繰り返しだ。ところがこの間、10歳だった子供は20歳となり、異次元の世界に足を踏み入れている。未知なるものに強い好奇心を持ち、新しいものを創造する意欲に満ちている。社会にとって、やはり新陳代謝は必要なのだ。

 世界が新たな転換点に到達していることは、この欄でも何度か触れた。技術革新に引っ張られて、世界もアジアもすでに大きく変貌してきたし、変化のスピードはさらに加速している。ところがわれわれの頭が、この変化についていけているのか、多々、疑問に感じる。当然、その変化への対応も時代遅れだったりする。だから若い世代の感性が必要なのだ。

 その一つの例が中国社会の変化に対するわれわれの見方のズレであり、日中関係における若い世代の果たすべき役割に対する認識のズレだ。そのズレは年々大きくなっている。中国社会の変化はすさまじい。中でも中国国民の対日観の劇的な変化には正直、驚く。秩序だった、清潔で、安心で安全な、しかも伝統が息づく快適な社会-これが彼らの日本社会に対する見方となっており、評価は、うなぎ上りだ。

 訪日観光客の増大がこの変化のきっかけとなった。日本を訪問する中国人は急速に増え昨年は800万人を超えた。しかも、これらの中国人がSNSで50人、100人といった数の友人たちに自分が見たこと、感じたことを書き送っている。単純計算でも、4億人から8億人の人たちに届いている。

 彼らの対日観が変化した背景に、中国国民の生活水準の向上がある。北京、上海、深〓(〓は「土へん」に「川」)、広州などはすでに先進国のレベルに達している。つまり彼らの生活様式の変化により、日本社会の良いところを素直に感得できるようになったということだ。

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 特に若い世代、とりわけ1990年代以降に生まれた若者たちは、日本のアニメを始めとする若者文化に子供の頃から親しんでいる。日本文化の薫陶を受けて育っているのだ。日本と中国の文化が近いことも、彼らに対する影響力を強めている、彼らは、今日の日本社会にごく自然に溶け込んでいける。日本の若者も、同じような文化で育った中国の若者との交流に違和感は少ない。日中のこの世代同士の対話は自由で闊達(かったつ)だ。

 彼らこそが、新しい日本人と中国人の関係を築いてくれるだろう。それはお互いをよく知り、敬意を抱き合う関係となっていることだろう。日本人は、同じ間違いをしないために歴史を学び、歴史を学ぶことで国土を踏みにじられた人たちの痛みを知る。中国人は、そういう日本人を見て、もう歴史のことは口にしない。そういう「近所づきあいのマナー」を、彼らの世代は作りあげることができるだろう。そう願ってやまない。

【略歴】1946年、福岡県太宰府市生まれ。修猷館高-京都大法学部卒。69年に外務省入省。中国課長、アトランタ総領事、ミャンマー大使、沖縄担当大使などを歴任。2006年から10年まで中国大使。著書に「強硬外交を反省する中国」など。

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