「ニュース砂漠」広がる 米東部ニュージャージー州ルポ 地方紙廃刊・縮小相次ぐ 人口減の町「苦境伝わらない」  (2ページ目)

西日本新聞 国際面

 町のコンビニでは地方紙が3紙売られていた。2紙はNJ南西部、1紙はフィラデルフィアを主要エリアとする新聞。3紙ともポールズボロも取材対象地域だが、報じられるニュースは事件事故くらい。「あまり売れないので取り扱い部数を減らしている」(店員)

 町にはかつて日刊紙があったが、今は年4回の季刊となり、日々のニュースは載らない。数年前まで南西部の地方紙に町担当の記者が1人いたが、新聞社の合併や人員削減のあおりで業務範囲が増え、負担に耐えられず辞めたという。

 地元テレビ局はフィラデルフィアなど大都市のニュースが中心で、郡部への関心は薄い。町では今秋、町長選が予定され、町長は先日、再選を目指して出馬表明したが、誰も取材に来なかった。

 地域ニュースが報じられない「ニュース砂漠」は全米で急増している。ノース・カロライナ大(UNC)の調査によると、昨年発行された新聞は7112紙(週刊含む)で、2004年から1800紙近く減少。全米3143郡で日刊の地元紙がない空白地は2千を超える。

 弊害として指摘されるのが、地方自治体に対するチェック機能の低下だ。地元紙が廃刊したカリフォルニア州の市では、市幹部らが給与を勝手に10倍以上増額していた。だが市政を取材する記者はおらず、問題は長く発覚しなかった。

 イリノイ大の研究では、地元紙のない自治体は外部からの監視が働きにくく信頼度が低い組織とみなされ、資金の借入金利が高率になっていることが分かった。地元紙のない地域は貧困率が全米平均より5ポイント高く、平均年収も約150万円低いとの報告もある。

 ▼報道増へ州が基金

 だが町が「ニュース砂漠」の危機にひんしているとの意識は住民には希薄だ。「新聞は読まない。町のことはフェイスブック(FB)で誰かが発信しているから、それで十分」。空き家対策事業で再建された家を購入した中年女性は全く気にしない。

 情報発信にソーシャルメディアが有効なことは町長も認識し、町もFBで情報発信している。「いずれ地方紙はなくなるだろう。今はその転換期だ」と思う。

 だが、インターネット上で地方のニュースが流れたとしても、取材もせずに裏付けのないネット上の情報を引用して記事化するなど、どこまで信頼性があるのか、不安はぬぐえない。

 州政府は昨年、地域ニュースの報道量を増やす目的の基金創設を決定。金額は未定だが、基金の支援を受けて地域取材の準備を始める動きもある。ただ、町がその取材対象になるかは分からない。

 町が手掛けた空き家対策は計画中も含め約40軒。需要があるとの手応えはつかんだ。空き店舗だらけのショッピングモールへの店舗誘致も成果が出つつある。今、町のことを広く正確に伝える存在があれば、苦境を脱する大きな力になるはずなのだが…。

 「ニュース砂漠が町にどう影響するのか、俺には分からない」。町長の表情にやるせなさがにじんだ。

■選挙結果にも影響

 地方紙などのメディアの衰退が選挙に影響を及ぼすとの指摘も少なくない。

 「地方選で地方紙は候補者に取材して客観的に論評し、多くの住民がそれを判断材料にしていた」。米国の「ニュース砂漠」の実態を調査しているUNCのアバナシー教授はこう語る。

 廃刊や記者の人員削減が進む今、多くの地方紙はこうした役割を担えなくなり、地方自治への関心の低下や投票率下落の一因になっているという。

 さらに、深刻な問題として浮上しているのが投票行動の二極化だ。地方メディアの衰退の結果、住民は全国メディアから情報を得る頻度が高まっているが、現状の主要メディアの多くはトランプ大統領の評価を巡り保守系、リベラル系で主張が明確に分かれる。複数の調査によると、保守系メディアを好む人は共和党を、リベラル系なら民主党を支持する傾向がこれまでになく強まっており、国政選挙や地方選挙を問わず、候補者を政策や人柄ではなく所属政党名だけで判断する投票行動が顕著になっているという。

 そんな中、NJである異変が起きた。NJはリベラル層の牙城ニューヨークに隣接するため民主党支持が優勢だが、昨年まで8年間は共和党が州知事ポストを握るなど「一つの政党に偏りすぎない伝統があった」(州政府担当の地元記者)。

 だが昨年の中間選挙の下院選挙で、州内計12選挙区のうち11選挙区で民主党が勝利したのだ。トランプ氏への反発が最大の要因とみられるが、これほど勝敗が偏った背景として、アバナシー教授は「ニューヨークで圧倒的に支持を受けるリベラル系の大手紙やテレビ局の報道を主な情報源とする地方の住民が増え、強い影響を受けたとみられる」と分析。スティーブンソン町長も同じ見方を示した。

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