夏山の季節 低い山も甘く見れば危険

西日本新聞 オピニオン面

 一大遭難事故の恐れもあった中、奇跡的な救出劇だった。

 登山客の人気が高い世界自然遺産の屋久島(鹿児島県)で、局地的な大雨に見舞われた300人以上の登山者が孤立状態で一夜を明かした。自衛隊、警察、消防などが、濁流の中、全員を無事下山へと導いた。

 夏山シーズンを告げる山開きが開かれる6月を前に、安全な登山の心掛けを改めて強く意識させられる出来事だった。

 近年は、戦後数度目の登山ブームとされる。

 九州には屋久島・宮之浦岳、久住山など標高1700メートルを超す山々のほか、同300~500メートル級の低い山も多く、登山愛好者の裾野は広がっている。

 頂上を目指す従来のピークハントだけでなく、途中の弁当の時間をメインにしたり、麓の湿原だけを歩いたり、楽しみ方は多様だ。山道を走るトレイルランニングの人気も定着した。

 とはいえ、相手は大自然である。いつも上機嫌で迎えてくれるとは限らない。屋久島の一件は、まさにそれだ。今回の遭難場所は、普段なら初級者でも楽しめるルート上だった。気象台は事前に「大雨の恐れ」を伝える気象情報を出していた。ここ数年、局地的に極端な降り方をする大雨がしばしば起きている。案内したガイドも含め入山した判断の適否が問われよう。

 警察庁によると、山岳遭難者数は増加傾向にあり、おととしは年間3100人余に上った。今春の大型連休中(10日間)は207人が遭難し、うち23人が死亡、76人が負傷した。

 宮崎県の五葉岳(1570メートル)では今月半ば、67歳の女性が一時遭難した。夫と登山中にはぐれ、下山できたのは2日後だった。「道に迷った」という。

 「道迷い」のケースは多い。たとえ低山でも、落ち葉で登山道が覆われるなどしていれば簡単に起きる。焦ってやみくもに進むことなく、来た道をたどって正規の登山道に戻りたい。

 登山は事前の準備が何より大事だ。コースと所要時間、天候などを確認し、計画書を必ず登山口のポストに投函(とうかん)する。

 滑りにくい登山靴や非常食を入れたリュックも不可欠だ。山の天候は急変する。レインウエアなど雨具は、万が一の低体温症などに対処するために必須である。こうした備えは、そのまま災害時の避難用具にもなる。

 火山は一層甘く見てはならない。5年前に起きた長野、岐阜県境の御嶽山(おんたけさん)の噴火で、登山客ら63人が死亡・行方不明となった。九州には阿蘇山、雲仙岳、霧島山、桜島など17の活火山がある。気象庁が発する活動情報や地元自治体の規制情報を確認した上で一歩を踏み入れたい。

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