川端康成ゆかりの客室 保存へ 宮崎観光ホテル 朝ドラの取材で滞在

西日本新聞 夕刊

川端康成が半世紀前に滞在した部屋。8月のリニューアルオープン後は、西館の客室で唯一の和室となる(宮崎観光ホテル提供) 拡大

川端康成が半世紀前に滞在した部屋。8月のリニューアルオープン後は、西館の客室で唯一の和室となる(宮崎観光ホテル提供)

ホテル前に広がる大淀川沿いのベンチに座り、「こうして川端先生と夕日を眺めながら話をしたんです」と振り返る渡辺綱纜さん

 文豪、川端康成(1899~1972)がNHK朝の連続テレビ小説「たまゆら」原作の取材拠点として半月間滞在した宮崎市の宮崎観光ホテル西館5階の和室が、半世紀前のまま残されることになった。宮崎の夕映えに魅せられた川端が滞在延長を重ねたという「思い出の部屋」。同ホテルは耐震工事のため全面改修し洋室化する予定だったが、内外の惜しむ声を受けて急きょ計画を変更。客室を保存し、文豪ゆかりの部屋としてPRしていくことにした。

 65年4月スタートの朝ドラのため前年11月に宮崎入りした川端は、2、3泊後には桜島(鹿児島県)や天草(熊本県)、壱岐・対馬(長崎県)など九州各地を巡る予定だった。ところが終わってみれば全17泊の行程のうち同ホテルを中心に宮崎県に16泊。神話ゆかりの青島や高千穂など県内各地の名所を巡ったという。

 川端を宮崎にくぎ付けにしたのが、初日に眺めた南国情緒ある夕映えの光景だったという。案内役として滞在中ずっと随行した当時の宮崎交通企画宣伝課長、渡辺綱纜(つなとも)さん(88)=宮崎市=は振り返る。「空港からホテルへ向かう途中、川端先生が突如『車を止めて』と言うんです。ちょうど夕日が西の山の端にかかる瞬間で、めらめらと揺れながら沈み込むまで無言で眺めていました」

 「こんな美しい夕日は初めてです。本当にすばらしい」。そう言った川端は滞在期間中、部屋のバルコニーや大淀川の川べりから、しばしば夕映えを楽しんでいたという。

 半世紀がたち、川端滞在の歴史を知る人も少なくなった。それでも今年4月に耐震改装工事が始まると、市民から「歴史ある部屋がもったいない」「ホテルの宝では」などと電話が寄せられ、若い従業員からも保存を望む声が上がった。反響は大きく、ホテルは耐震基準を満たすことを確認した上で計画変更を決めた。

 川端が滞在した広さ約30平方メートルの客室は、8月のリニューアルオープン後は西館で唯一の和室として残り、宿泊もできる。川端ゆかりの部屋として著書や当時の写真なども展示される計画で、川端が夕日を眺めたバルコニーも当時そのままだ。

 川端は宮崎滞在から4年後の68年にノーベル文学賞を受賞。渡辺さんにとっても一生忘れられない作家になったという。「古事記1冊を携えて宮崎に来た川端先生が懐かしく、一緒に見た夕焼けの美しさは今でもよみがえる。先生のあの部屋が残って本当に良かった。私もいつか泊まってみたい」と話している。 

▼たまゆら

 1965年4月から1年間放映されたNHKの連続テレビ小説。川端康成の同名短編小説(51年)とは別作品で、ドラマの原作として書き下ろされた。主人公(笠智衆)が第二の人生の節目に、古事記を携えて旅に出る話。原作に沿って宮崎各地がロケ地となった。たまゆらの直筆原稿135枚分や放送台本などが2015年、神奈川県鎌倉市の川端邸で見つかっている。

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