災害公営住宅遠い生活再建 高齢者の孤独、尽きぬ不安

西日本新聞 熊本版

日課の散歩をする岩村さん親子。将来への不安を考えると会話も弾まないという 拡大

日課の散歩をする岩村さん親子。将来への不安を考えると会話も弾まないという

 熊本地震で自宅を失い、自力再建が難しい被災者向けに整備が進む災害公営住宅。高齢者にとっては「ついのすみか」となる可能性が高いが、入居者からは先行きを不安視する声が上がる。もともと健康への不安を抱えているのに加え、仮設住宅では不要だった家賃負担が発生し、近隣住民との付き合いも乏しくなったという。東日本大震災の災害公営住宅では高齢者の孤独死が後を絶たず、県内で見守り活動に取り組むボランティア関係者は「仮設住宅を退去した後の支援が重要だ」と訴える。

 3月末、初めて届いた家賃の請求書。甲佐町の災害公営住宅に住む斉藤美恵子さん(81)は表情を曇らせた。「どうやって暮らしていけば…」。家賃は共益費込みで約1万3千円。低所得世帯で減免されているが、月5万円の年金生活には重い。

 斉藤さんは22年前に夫に先立たれ、1人暮らし。2月中旬に仮設住宅から転居し、部屋は広く住みやすくなったが、生活不安は膨らんだ。高血圧に加え、地震後は不眠に悩み、定期的な通院が欠かせない。慶事や仏事があれば、家計はすぐに赤字になる。

 近くには同じ仮設で暮らした人もいる。ただ、災害公営住宅に集会所はない。「いろんな悩みを話す場所だったのに、今は孤独。辛抱するしかないね」

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 県内では昨年7月の西原村を皮切りに災害公営住宅の入居が始まった。計12市町村で計1715戸を建てる計画で、1657世帯が入居する予定。このうち28%の478世帯が65歳以上の独居世帯が占める。

 東日本大震災の被災地の岩手、宮城両県の災害公営住宅では孤独死が問題となっている。特に宮城県では2014年からの5年間で120人が死亡。このうち70代以上が70人と半数を超える。1人暮らしで持病を抱える場合が多い。

 仮設住宅などで復旧支援に取り組む熊本学園大ボランティアセンターのスタッフ照谷明日香さん(38)によると、災害公営住宅に入居した後、張り詰めていた気持ちが切れ、たまっていた疲れから亡くなる人もいるという。照谷さんは「仮設団地では入居者同士で声を掛け、見守り合っていたからこそ、助かった命がたくさんあった」と指摘するが、災害公営住宅では仮設の入居者が散り散りになるケースも想定される。

 近所づきあいの減った高齢者は、体調の急な悪化による孤独死の心配がつきまとう。岩手県では孤立を防ぐため、県社会福祉協議会が各市町村社協に入居者の見守り活動を委託している。宮城県は国の被災者支援の交付金をもとに、見守りをする自治体やNPO、各市町村の社協などに活動費を補助する制度を設けている。熊本県でも県の復興基金を活用し、各市町村が見守りに取り組むという。

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 益城町の仮設団地で暮らしている岩村秀誠さん(71)と母フジ子さん(94)は来春、災害公営住宅に入居予定だ。住まいの再建のゴールとなるはずだったが、「私も母も歳。どちらが長生きしても大変」と秀誠さんはため息を漏らす。

 自宅は全壊。長引く仮設暮らしで、フジ子さんは足腰が弱り、つえが必要になった。入れ歯も合わなくなり、耳も遠くなった。持病の貧血もある。秀誠さんは母を残して長く家を空けることができず、仕事もなかなか見つからない。2人分の年金月計15万円が命綱だ。それでも災害公営住宅に入居すると、行政からは「生活を再建した」とみなされる。

 「災害公営住宅は仮設よりも高齢化率が高く、個々の生活も見えづらい。行政の見守り活動だけでは限界がある」。こう指摘する照谷さんは、災害公営住宅の入居者に限定した支援では不十分とし、周辺地域を巻き込んだコミュニティー形成の必要性を提言する。

 岩村さん親子は仮設周辺での散歩が日課だ。つえをつきながら歩く母を横で見守りながら、秀誠さんはつぶやく。「仮設を出て生活が苦しくなるなら、ずっと仮設にいたい」。熊本地震から3年余り。暮らしの復興はこれからが正念場だ。

【ワードBOX】災害公営住宅

 地震や津波などの災害で自宅を失い、自力で再建できない被災者のため、都道府県や市町村が整備する賃貸物件。高齢者や所得の低い世帯が入居するケースが多い。仮設住宅の家賃が無料なのに対して、入居者の収入や間取りによって家賃が決まり、数千-数万円が一般的。集合住宅と一戸建てがある。県内12市町村で計1715戸が整備される計画で、今年3月末時点で496戸が完成している。

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