針葉樹は悪くない 佐藤 弘

西日本新聞 オピニオン面

 梅雨入りが近づき、少々もやもやしている。大雨などで大規模な山崩れが起きると、スギやヒノキなど針葉樹の人工林が悪者にされるからだ。「広葉樹だったら、ここまでの被害は出なかった…」。2017年の九州豪雨の際も、そんな論調の記事を見た。

 だが、そうした指摘や主張が出るたび、林家から「そうじゃない」という声を数多く聞いてきた。福岡県朝倉市に祖父から引き継いだ山を持ち、製材所を営む杉岡世邦さん(50)も、その一人だ。

 -なぜ、大雨に伴う流木災害が増えたのだろうか。

 「一つはかつてない猛烈な雨が降るようになったから。1953年、筑後川が氾濫した西日本水害時の雨量は3日間で千ミリほど。九州豪雨では1日で同じ量が降りました」

 -それだけの量が一度に降れば無理はないと?

 「植林には、尾根マツ・谷スギ・中ヒノキという適地適木の考え方があります。スギが多く植えられた谷に、猛烈な雨水が集中して表層崩壊を起こした結果でしょう」

 -谷の木がスギ以外だったら崩壊しなかった?

 「表層崩壊といっても、根より深い場所で起こるので、広葉樹でも同じこと。専門機関の調査でも、根を引き抜く際の抵抗値は、スギはケヤキより弱いというデータはありますが、他の広葉樹との比較で明確な差はありません」

 -スギの抵抗力は、そんなに弱くない、と?

 「治山治水においては『樹種』の選択より、『樹齢』で考える視点が必要です。古い木は根が張って地面を押さえ、自重で地面を締める効果もある。現在の森林業は、効率化の観点から立木をすべて一度に切る皆伐が主流ですが、スギであっても、古い木を一定の本数残して育てれば治山には有効だと考えます」

 -それは現場の経験則か。

 「東京大名誉教授の太田猛彦先生(森林科学)も『災害に強い森づくりとは、森林の機能には限界があるということを知りながら、適切な森づくり・林業を、間伐を含めてやっていくこと』とおっしゃっています。沢筋など崩壊しそうな場所は切らずにそのまま大きくした方がいい、と」

 -今後も気象庁の言う「経験したことのないような大雨」は頻発しそうだ。

 「今こそ冷静に、起こったことを分析し、対策を練ることが必要だと感じています」

 要は適地適木。ほんの数年先さえ見通せないこの時代、成木になる50年先を見据えて地道に山と向き合う林家たちの意欲をそぐような、針葉樹=悪という誤解だけは解いておきたい。 

(編集委員)

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