タイ民主活動家「苦難」 相次ぐ襲撃、市民の“無視”嘆く

西日本新聞 国際面

 【バンコク川合秀紀】軍事政権下のタイで、民主化を求める活動家が襲われる事件が相次いでいる。バンコク郊外に住むエカチャイ氏(44)は今月、市街地の路上で4人組に暴行され、右手首を骨折。被害は昨年1月以降、計9回に及ぶ。タイでは5年ぶりに国会が再開したが、その翌日の25日にも別の活動家が何者かに殴打された。間もなく民政へ移行するタイだが、事実上の軍政継続が濃厚だ。「真の民主化」を求める活動家たちは時に焦りも感じながら、戦い続ける。

 これまでと同じように、背後からの襲撃だった。

 13日朝、エカチャイ氏は反軍政の集会に参加した罪でバンコクの裁判所に出頭。裁判所前でバスを降りた直後、マスク姿の男に後ろから蹴られ、別の男3人も暴行に加わった。通勤時間帯で人通りも多かったが、誰も制止せず「裁判所の警備員も助けてくれなかった」。暴行は数分間続いた。

 軍政批判の記事を執筆するなどして生活費を稼ぎながら活動を続ける。昨年1月、軍政幹部の不正蓄財疑惑について報道陣の取材を受けていたところを初めて襲われた。8月には集会で演説中に腐った魚を投げつけられ、木の棒で殴られた。今年1月と4月には自分の車が放火された。

 どの事件も事前の警告や脅迫はなく、襲撃中も皆、無言だった。1件だけ現行犯で捕まったが、ほかは犯人も理由も不明のままだ。

 「誰かが私に活動をやめさせたいと思っている。しかも私が屈しないから余計に狙われるのだろう」

 4月の放火事件後、「警察は当てにならない」と政府に警備を要請した。回答は「インターネットや携帯電話を使わないなら警備する」。それは「活動するな」と同義だ。応じることはできなかった。

 2014年5月の軍事クーデターから5年。近く予定される新首相選出では、当時陸軍司令官としてクーデターを主導したプラユット暫定首相の続投が濃厚で、軍政が事実上継続する可能性が高い。自分の活動はどこまで意味があったのか、自問する。

 「活動は絶対に続ける。でも最近驚くのは国民が反対の声をあまり上げないこと。総選挙でも親軍政政党に投票した人が多かった。軍政が怖いのか、軍政に慣れたのか、それとも自分の生活が良ければそれでいいと満足しているのか」

 25日早朝には、活動家仲間のアヌラック氏(51)が6人以上の男たちに鉄棒などで殴られた。親軍政政党批判を会員制交流サイト(SNS)に投稿した後だった。エカチャイ氏もアヌラック氏も負傷した自身の写真を公開しているが、大きな反響を呼んでいるとは言えない。襲撃の事実を報じない地元メディアもある。

 エカチャイ氏はこの現状を「無視の社会」と嘆く。それでも、意見を表明し、権力に反対する自由は民主主義の根幹だと信じる。「権力と闘うだけではなく、人々の意識を変えるためにも活動を続ける」。25日も、開会中の国会会場前で約30人が軍政継続への抗議活動を行った。その中心で、右腕をつったエカチャイ氏は声を上げ続けた。

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