ただ1人の反対者

西日本新聞 オピニオン面

 前回のこのコラムで、日本維新の会に所属していた丸山穂高衆院議員が、北方領土の元島民に「戦争で取り返す」ことをけしかけるような発言をした件を取り上げた。戦争の惨禍の実感も知識もない若い議員が、軽々しく戦争を扱う不見識にはあきれるばかりだ。

 国会では先週、丸山氏への議員辞職勧告決議をすべきだという日本維新の会など野党と、けん責決議にとどめるのが妥当とする自民・公明が対立し、調整が難航。結論を持ち越した。

 さて、前回私は丸山氏を厳しく批判した。丸山氏が「言論の自由」を盾に開き直っているのを見れば「自由には責任が伴うだろ」と一段と腹が立つ。しかし、それでも私は辞職勧告決議には反対である。こんな取材経験があるからだ。

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 1997年4月のこと、参院で新進党(当時)に所属していた友部達夫議員に対する辞職勧告決議案の採決が行われ、可決された。辞職勧告決議案の可決は戦後初めてだった。

 友部氏はオレンジ共済組合という団体をつくり、高金利の金融商品をうたって資金を集めながら、実際には遊興や政治資金に使う悪質な詐欺事件を起こした。友部氏は事件が発覚して離党し、その後逮捕された。

 新進党は党へのダメージが長引くのを避けるため、むしろ辞職勧告に積極的だった。丸山氏に関する日本維新の会と似た構図だ。

 そういう事案なので、決議案は満場一致で可決されると思われていた。ところが起立採決の際、1人だけ立たない議員がいた。周囲の議員から「おっ」という小さな声が上がった。

 ただ1人の反対者は、二院クラブという小政党の佐藤道夫議員だった。

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 佐藤氏は元検察幹部。その佐藤氏がなぜ-と思い、私は話を聞きに行った。

 佐藤氏は「私の経験からも有罪は間違いないと思う」と苦笑しつつ「本人は無罪を主張しているし、容疑者は判決確定まで無罪の推定がなされる」と指摘。その上で「国会が議員の身分を否定するのは行き過ぎだ」と結論付けた。正論だ。

 後日談。佐藤氏は支持者から「なぜかばう」と抗議されたが、説明すると納得してもらえたという。「へそまがりだから仕方がない、と思われたかも」。何より感心したのは、ムードに流されない冷静さだった。今回も話を伺いたいが、鬼籍に入られている。

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 丸山氏の件に戻る。

 私は逆のケースを懸念する。もしも将来、国会が好戦的で思慮の浅い(要するに丸山氏のような)議員ばかりになり、実際に戦争が始まったときに、ただ1人「戦争反対」を叫んだ議員は、それで辞職勧告を受けてしまうのか、と。

 戦前には「反軍演説」をした議員が国会の議決で議員を辞めさせられた例もある。今回の議員辞職勧告決議に強制力はないが、それでも発言内容を理由に、議会が議員の身分を否定する前例をつくるのは危うい。

 ある人を議員にしたり、議員を辞めさせたりするのは、あくまで有権者が選挙という手段で行う。この原則を崩してはならない。丸山氏の処遇は、選挙民に委ねるのが本筋である。

 腹の立つことの多い世の中だが、私はせめて冷静に腹を立てるよう心掛けている。 (特別論説委員)

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