【日日是好日】袖振り合うも多生の縁… 羅漢寺住職 太田英華

西日本新聞

 大型連休前ののどかなある日、1人の青年がお参りに来ました。仕事の出張で東京から来たそうです。

 20代半ばの彼の笑顔は柔らかで、とても自然です。彼はそのまま阿弥陀堂の鐘を鳴らしてお参りし、庭園へ向かいました。

 静かな日で、私が本堂前で草取りをしていますと、今度は元気な2人の小学生が走って現れ、続いてにこにこしながらお母さんが歩いて来ました。

 「元気だね。どちらから来られました?」とそのご家族に尋ねると、「東京からです。連休前の人が少ない時を選んで来ました」とお母さん。「あれ、学校は?」と私が尋ねると、小学低学年の弟さんが私に「僕、ゼロ歳で肝臓移植したの。ほら」とおなかを見せてくれました。

 私は驚いて「えっ、痛かったでしょう。よく頑張ったね」と彼に言いました。お母さんは「いいお医者さんに出会いました。わがままかもしれませんが、私は息子の命を信じ、やりたいことをさせています」と少し涙ぐんで私に言ってくれました。

 詳しくは伺っていませんが、彼は移植以来、感染症との闘いだそうです。「ここにたくさんの虫がいるんだけど何?」と彼は私に聞いてきました。「これはアリだよ」と私が言うと、「気持ちが悪い。でも、命だね」と言い、またはしゃいで走りだしました。

 私は、彼らを優しい目で見守るお母さんに申し上げました。「お母さん。彼はきちんと大事なことを見つめていますよ」。お母さんはニコッとうなずき、「これからイルカに会いに天草に行きます」と言いました。

 ちょうどその時、庭園に行った青年が戻ってきました。「そういえばこちらのご家族も東京から来られて、これから天草に行かれるんですって」と帰りがけの元気な子たちのご家族を、青年に紹介しました。

 「えっ、僕は就職して東京にいますが天草出身です」。青年と私は互いに笑いながら、手を振り元気なご家族を見送りました。「あの元気な弟さんはゼロ歳で肝臓移植をしたそうよ」と一人残った青年に伝えると、彼は驚きしばらくして言いました。「僕は両親から、幸せは良い会社に入ることだと教わりました。でも、本当の幸せって、お父さんになって人生の生き方を子供に伝える事だと思うんです」

 「あなたは彼女がいるの」と尋ねると、「はい、でも僕が転勤族だから彼女に悪いなって…」と言います。「きっとそのうち、あなたの理想の仕事に出会う。そのとき、きっと良いお父さんになるよ」と申し上げ彼を見送りました。

 2時間ばかりのわずかなひと時でしたが、大変印象に残った出会いでした。きっと、大きく成長した元気な家族にも、そして青年の家族にもまたここで会えると確信し、「みんな頑張れ」と心の中でエールを送り合掌しました。

【略歴】1967年、羅漢寺27世住職の娘として生まれる。高校卒業後、大学進学のため上京。20代半ばから40歳で出家するまでフラメンコダンサーとして活動。出家後、愛知県の尼僧専門修行道場で約5年間、僧堂修行し、2013年3月に帰山。現在、羅漢寺28世住職として寺を守る。

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