携帯電話もパソコンもない時代の中学生だった…

西日本新聞 オピニオン面

 携帯電話もパソコンもない時代の中学生だった。夜が長い。夕食を終えてもふらりと出歩くほど大人ではないが、親と一緒にテレビを見続けるほど幼くもない。夜は、福岡から届くラジオ放送が外界との接点だった

▼番組やCMの合間に流れていたPR曲を覚えている。♪さわやかラジオ~の後に放送局の名前が続く。言葉通りに澄んだ歌声。オフコースというグループのハーモニーと知った

▼そのメンバーだった小田和正さんが先週、福岡市で公演した。71歳だそうだ。太宰府天満宮の茶店で料金を払わずに出ようとしたり、列車の座席を初めて譲られたりしたエピソードで爆笑させたが、伸びのある高音を響かせて会場を圧倒した

▼「人間の記憶とは、歌入りの記憶だと思う」。作家の五木寛之さんが書いている。「歌とともに、走馬灯のようにいろいろな記憶が反射的に甦(よみがえ)って」くる、とも。40年以上前にラジオで聞いた曲が染みるのも、1人の夜の寂しさと結び付いているのかもしれない

▼記憶は楽しいものばかりではない。むしろ悲しい思い出とのセットの方が多いようにも思う。それでも歌に励まされ、元気づけられることがある。そんな歌は、唇が覚えている

▼小田さんだけでなく客席も少々年齢が上がった。元少年少女たちへのエールのようにも、その曲は聞こえた。「あきらめないでうたうことだけは/誰にでも朝は訪れるから」(夏の終り)。

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