【どこが「沈みゆく国」か】 藻谷 浩介さん

西日本新聞 オピニオン面

藻谷浩介(もたに・こうすけ)さん=日本総合研究所調査部主席研究員 拡大

藻谷浩介(もたに・こうすけ)さん=日本総合研究所調査部主席研究員

 ◆平成の日本経済

 平成30年間に日本の経済はどうなったか。平成元年(バブル期の1989年)と30年(昨年)の数字を単純比較した、以下の四つのクイズにお答えいただきたい。

    ◆   ◆

 第1問。日本の輸出額は、減ったか、増えたか?

 輸出とは、国内で生産され海外で売られたモノの総額、つまり「“モノづくりニッポン”の対外売り上げ」である。海外移転した日本企業の工場の生産額はもちろん含まれない。ヒントは、日本の輸出のほとんどは依然、ハイテク工業製品であること。日本食人気で農産物の輸出も増えてきてはいるが、まだまだ微額だ。北九州市の安川電機のロボットや、福岡県宮若市のトヨタ自動車九州の高級車などは、その雄といえるだろう。

 第2問。日本の経常収支黒字は、倍増したか、半減したか?

 経常収支とは、貿易収支(輸出マイナス輸入)、1次所得収支(金利配当)、観光収支、それに特許料、著作権料、ソフトウエア購入代金などの収支を合計したもので、「“ニッポン株式会社”の経常利益」といえる。なお、その中の貿易収支だけを見ると、平成元年の11兆円が30年には1兆円と、黒字がほぼ消滅してしまった。

 第3問。日本のGDP(国内総生産)は、3割増か、横ばいか、3割減か?

 GDPに関しては昨今「水増し疑惑」もささやかれるが、政府が出している最新の数字をそのまま比較する。(なお、平成元年の数字は、内閣府国民経済計算のホームページに参考値として出ている「単純遡及(そきゅう)値」)

 第4問。東京証券取引所上場株式の時価総額は、増えたか、横ばいか、減ったか?

 平成30年の数字には、元年に存在しなかった新興市場を含む。なお株式時価総額は、上場株式すべての値段の総額であり、一部を取り出した日経平均とは異なる。「“ニッポン株式会社”の時価総額」と思っていただくと良い。

    ◆   ◆

 さて正解は。輸出が2・2倍増、経常収支黒字も2・2倍増、GDPは3割増、株価は2割増だ。出典はそれぞれ確固たる統計値(順に財務省「国際収支状況」、同、内閣府国民経済計算、東京証券取引所統計)なので、ご疑問の方はホームページを確認されたい。昨年の輸出額81兆円など、押しも押されもせぬ史上最高額だ。経常収支黒字19兆円も、ドイツに次ぐ世界2位で、中国(+香港)の2・5倍もの水準である。

 ところで、過去30年間に、売上も経常利益も倍増し(しかも経常利益の額は“業界2位”)、生み出す付加価値は3割増、株価も2割上がっている会社はどういう評価を受けるだろうか。「高い競争力を持ち、成長を続ける会社」と言われるに違いない。

 ところが、改元を契機に平成30年間の日本はどう総括されたか。「沈みゆく国」「国際競争で敗退を重ねた国」と、さんざんな言われようではなかったか。フェイクニュースばかりが飛び交う日本の現実が、そこにあった。

 確かに歯止めなき少子化、政府純債務の激増、再生可能エネルギーへの転換の遅れなど、後世に禍根を残す問題も多い。GDPにしても、成長は平成の最初の9年間だけで、平成9年(1997年)以降は総じて横ばいである。だが「日本経済は長期低迷」と叫ぶ人たちは、そもそも前提となる数字を確認せず、世の論調に付和雷同していただけだろう。

 皆が口をそろえるからと言って事実とは限らない。平成年間に劣化したのは、このセオリーを忘れて事実再確認の習慣を失い、フェイクニュースに対する免疫力をなくした、日本人の認識力である。

【略歴】1964年、山口県徳山市(現周南市)生まれ。88年東京大法学部卒、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)入行。米コロンビア大経営大学院で経営学修士(MBA)取得。2012年1月から現職。著書に「デフレの正体」「里山資本主義」など。

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