戦火に消えた街角人生 上別府 保慶

西日本新聞 オピニオン面

 前略。毎週木曜に掲載しております拙稿ですが、年配の方々から感想のお手紙を頂き、励みにしております。

 中でも福岡市東区のAさん(78)は毎回、長文の封書を寄せられ、深い内容には感心しきりです。以前はワープロ書きでしたが故障したとのこと。でも達者な筆にはお人柄も映るようで、楽しみです。

 私はなるべく文中に参考にした書籍名も入れるよう心掛けておりますが、AさんはマニアックなDVDまで取り寄せられたとの由。恐縮です。

 さて今年も、悲惨な沖縄戦が終わった6月23日が訪れます。今回は、戦火に巻き込まれる前の沖縄の人々の営みを映し、平和の尊さをしみじみ訴える本を紹介いたします。

 それは琉球史の研究者、上里隆史さんが2016年に出した「新聞投稿に見る百年前の沖縄」(原書房)です。戦前の沖縄で読まれた「琉球新報」には、「読者倶楽部(くらぶ)」という名物の投稿欄がありました(今の琉球新報とは別の新聞です)。上里さんはこの欄から、世相を嘆く声や恋の苦しみなど、人々のありのままの思いを拾って「混ぜものなし」で紹介しています。いくつか孫引きして抄録します。

 「将来の妻にもするからと言ったのに、他の女と結婚の式を挙げられるとのこと。あなたは薄情者です」

 「長屋に毎夜、けんかする夫婦がいる。疲れている人々やお年寄りの安眠を妨害し、迷惑千万。家主よ、かくのごとき不届きの者は一日も早く移転してもらってはどうだ」

 「洋服屋の女学生さんよ。君は僕と会う時はただちに傘で顔をかくすが、何の理あってそうするのか。君、以後注意したまえ」

 「不景気で本県物産たるアダン葉帽子も、突如大打撃をこうむり、女工連らはいかにして生活の途(みち)を講ずるか。悲惨なことは同情に値する」

 「活動写真は面白い。ことに学生には、西洋の風俗を知るには持ってこい。しかしお気の毒なのは(弁士の標準語が分からない)本県人のアンマー(お母さん)たちだ」

 ほかにも、威張る小学校長夫人や、酔っぱらって仕事をする警官に「けしからん」と怒る声、などなど。

 投稿者の名はペンネームながら、批判された側にすれば、これは自分のことかと分かる書き方です。後日、反論が載ることもありました。

 思えば、文中にある那覇の街角や路面電車などの風景は、沖縄戦で消えたものがほとんどです。あるいは投稿した庶民の命も。読後には、もの悲しさがこみ上げるのです。

 ではまた来週。草々。

 (編集委員)

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