シニアの「短時間雇用」へ本腰 業務切り分け1日3時間 得意な分野を無理せずに 就業意欲を後押し 介護予防も 福岡市が仕組みづくり

西日本新聞 くらし面

老人福祉センター「早寿園」では高齢者向けの求人情報が掲示されている=24日、福岡市早良区 拡大

老人福祉センター「早寿園」では高齢者向けの求人情報が掲示されている=24日、福岡市早良区

 超高齢社会を迎え、労働人口不足が進むなか、福岡市は、就業意欲の高い高齢者が働きやすい環境を整えようと「短時間雇用」の仕組みづくりに乗り出した。負担がそれほど重くない勤務体系を望むニーズが高いことから、企業側に対し、従来は正社員がフルタイムでこなしている業務を切り分ける形で求人してもらい、雇用をマッチングしていく。高齢者の就業促進は健康寿命の延伸につながることも期待され、介護予防にも一役買いそうだ。

  働きたいお年寄りは少なくない。ベテランの知識や経験、スキルを生かすことは社会全体に利点もある。だが実際は「働いていない人がかなりいる」(市高齢福祉課)のが現状だ。

  2013年の内閣府の意識調査によると、60歳以上の人に何歳ぐらいまで働きたいか尋ねたところ「70歳ぐらい」「75歳ぐらい」「76歳以上」「働けるうちはいつまでも」との回答が計65・9%。半面、18年の総務省調査では、65歳以上のうち仕事をしている人は24・4%にとどまっている。

  高齢者のニーズと企業側の求人の間に「勤務内容や時間、職種のミスマッチが生じている」(同課)形で、定年後は「フルタイムで働かなくていい」という声も根強いという。

  そこで市が本年度、新規事業として取り組むのが「シニア活躍応援プロジェクト」。高齢者の新たな働き方や企業の雇用モデルを含め、就業支援の方策を検討していく。

    ◇   ◇

 高齢者と企業をつなぐ工夫の一つとして市が想定しているのが短時間雇用だ。

  もともとは、働く能力があっても長時間の勤務が難しい特性がある障害者の社会参加を促そうと、東京大先端科学技術研究センターの近藤武夫准教授が提唱。具体的には、職場で社員の職務を分析し「その人がやることで価値が出る仕事」と「その人がやらなくてもよい仕事」に切り分ける。

  例えば営業職なら、客から契約を取るのは本人しかできない職務であるのに対し、会社に戻って伝票を処理したり、データ入力をしたりする作業は誰でもできる。短時間しか働けない人でも対応が可能になる‐という考え方だ。近藤氏の研究室はこうしたノウハウを川崎市や神戸市に提供し、障害者を雇用する企業も増えている。

  福岡市はこのような働き方を高齢者にも応用し、企業にさまざまな仕事の切り分けを働き掛け、1日2-3時間程度の求人を開拓する。高齢者側にも、そうした企業の求人情報などを提供したり、求職活動の相談に乗ったりするなどの支援を行い、事業所と高齢者の就業のマッチングをする。

  実践結果は官民で6月に設置するプロジェクト会議に随時報告し、改善点などを検討して継続的な仕組みにつなげるという。

    ◇   ◇

 市は本年度、各区の老人福祉センターでも、高齢者の就業・創業促進を本格化するよう求めている。

  もともとは健康増進・教養娯楽の場だが、早良区の同センター「早寿園」は1階の掲示板に「シニア求人コーナー」を設置した。既にデイサービスや老健センターなど4事業所が求人情報を掲示。中には、送迎車両の運転手、洗車作業など1日に2-3・5時間の短時間業務や、年齢制限を設けていない事業所もある。

  園長の樋口弘毅さん(50)によると、各種レクリエーション教室や無料のお風呂などの利用者は1日約200人。「今は70歳でも若い方が多い。『仕事探しよっちゃけど何かない?』とか、体が元気なうちは少しでも仕事をしたいが求人情報を仕入れる所がない、などの声がある」と言う。

  求人は、同区南部の介護や医療の事業所でつくる「さわら南よかとこネット」に協力を呼び掛け、快諾を得た。お年寄りがずっと地元で暮らせる地域づくりを目指す同ネットは約2年前から、介護の担い手不足を補う意味もあり、元気な高齢者向けの求人を事業所側に募り、さまざまなイベントの機会を捉え、その情報をPRしてきた。

  短時間雇用の促進について、同ネット代表の林隆一さん(44)は「洗車など資格がなくても働く場はある。例えば風呂から上がった利用者の髪を乾かすだけの人、などさまざまな求人も増えるかもしれない」と評価。「地域の高齢者が事業所に入ってくることで職員も緊張感が出て、施設の質の向上にもつながるのでは」とプラスアルファの効果にも期待する。

  掲示板を見ていた地元の篠崎成光さん(75)は定年退職して数年後に新しい仕事を見つけ、今も週3日、1日4時間働く。「体を動かした方が自分自身のためになるしね。何歳になっても働ける会社が増えてほしいです」と話した。

PR

PR

注目のテーマ