中国、批判封じへ市民分断 天安門事件30年 知識層弾圧、影響力そぐ

西日本新聞 総合面

 【北京・川原田健雄】中国の学生らによる民主化運動が武力弾圧された天安門事件から6月4日で30年を迎える。中国共産党は事件後、経済建設にまい進する一方、民主化に背を向け、一党独裁を強めてきた。米国との貿易戦争が本格化した昨年以降、中国国内では学識者から党批判の声が上がるが、当局は天安門事件のような社会運動に発展しないよう一般市民との分断を図っている。

 昨年7月、民間シンクタンクのサイト上で発表された論文が話題を呼んだ。筆者は習近平国家主席の母校である清華大の許章潤法学院教授。許氏は論文で、国家主席の任期を撤廃した昨年3月の憲法改正について「“スーパー元首”を生み出すものであり、任期制を復活すべきだ」と批判。天安門事件も「(事件発生日の)6月4日をひどく緊張して迎えるのではなく、政治平和のために障害を取り除く日にすればいい」と再評価を求めた。

 しかし、論文はすぐにネットから削除され、発表当時、学術交流のため日本にいた許氏も、大学からの度重なる呼び出しで予定を早めて9月に帰国した。

 「政権批判の芽が党内外から出ている。私に続いて厳しい意見を公表する人が出てくれば、独裁を変えられるかもしれない」。許氏は日本を離れる直前、面会した東大大学院の阿古智子准教授に論文の狙いを明かしたという。帰国後すぐに中国当局から拘束される恐れもあったが「米中関係が複雑化している今、乱暴なことはできないだろう。法の支配がない国とは思われたくないから」と意に介さなかったという。

 関係者によると、許氏は今年3月下旬、清華大当局から事情聴取を受けた。「何の目的で日本に行ったのか。面会相手は誰か」。厳しい追及に許氏は「なぜそんなことを答えなければいけないのか」と反論。「容疑者のように扱うのなら、私の権利を侵害せず、弁護士を立ち会わせてほしい」と求めたが、聞き入れられなかった。前後して国家安全省の調査も受けた。清華大は同月、許氏を停職処分とし、授業や研究など「一切の職務」を禁じた。

 中国政府は天安門事件を教訓に、知識層と一般市民が連携して社会運動を起こさないよう分断を徹底している。2013年には各大学に「公民の権利」や「党の歴史的誤り」など「教員が学生に話してはいけない7項目」(七不講)を通達。指導的立場になり得る民主活動家や人権派弁護士への弾圧も厳しい。

 許氏の論文は海外サイトに転載されたが、中国からは遮断されたまま。捨て身の訴えは市民に届いていない。それでも、許氏は3月に北京で再会した阿古氏に「海外に出たら実情が分からなくなり、影響力もなくなる。中国にいるからこそ言葉に力がある」と国内に残る決意を語ったという。

 5月下旬、阿古氏ら日本の学識者70人は「学問への弾圧だ」として清華大に停職処分の撤回を求める声明を発表した。「日本は隣国で何が起きているかにもっと関心を持つべきだ。外交や経済の利益に左右されるのではなく、人権などの普遍的な価値について言うべきことは言う姿勢が必要だ」と阿古氏は訴える。

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