虐待防止、鍵は「気付き」 親を指導、児相の努力義務 対話重ね悪循環断つ

西日本新聞 一面

 相次ぐ児童虐待事件を背景に、国会で成立が確実視されている児童福祉法改正案などには、虐待した親への医学的・心理的指導(再発防止プログラム)を児童相談所の努力義務とすることが盛り込まれる見通しとなった。親から子どもを引き離すだけでなく、親が抱える課題を解決し再発防止を目指す。既に独自に取り組んでいる児相もあり、「法的裏付け」を歓迎する一方、虐待を認めず児相との関わりを拒否する親も多いことから効果の限界を指摘する声もある。プログラムの実効性をどう確保するか先進例を基に探った。

 福岡市こども総合相談センター(児相)の家族療法室。子どもと離されうつむく母親の内面を、目の前の職員が穏やかにゆっくりと聞き出していく。昨年度始めた取り組みで、カナダでの実践例を基に大阪市のNPO法人が開発した「CRC親子プログラム」を用いる。半年間で計10~13回もの対話を重ね、育児不安や成育歴など虐待に至った親自身の課題に向き合ってもらう。プログラムを受けたのはまだ2組だが、母親の一人は自らの幼少体験が、いかに子育てに影響していたかに気付き、子どもとの接し方を考え直すことを受け入れたという。

 同児相では、同じ境遇の親が10人一組で思いを語り課題解決を図る「MY TREEペアレンツ・プログラム」も始める予定で、今春から職員が専門研修を受けている。「従来、児相は子どもの保護を優先し、親が抱える問題に向き合う余裕がなかった。プログラムの法制化で受講を勧めやすくなるし、予算や要員増も期待できる」と大和五幸こども支援課長は語る。

 厚生労働省によると、親対象の虐待防止プログラムは既に国内に10種類ほどあり、欧米の実践例を基に日本の市民団体が開発したケースが多い。民間調査によると、2016年度に何らかのプログラムを実施した児相は全国で約7割に上ったが、予算不足や職員の専門性不足から十分な成果を上げられない児相も少なくない。同省は「努力義務でも法に明記されれば一定の効果はある」とみる。

 ただ、親が自らの行為を虐待と認め、改める意欲があるかが極めて重要。福岡県福岡児相の森本浩所長は「従わないと子どもを返してもらえないからと、渋々受講し効果が表れない親もいる」と話す。大分県中央児相も「子どもを取られたと児相を恨み、そもそも関係を築けない親も多い」と打ち明ける。東京都目黒区や千葉県野田市で起きた虐待死事件ではいずれも親が虐待を認めず児相との関わりを拒んだ。「重大なケースほどプログラムが届かない現実がある」と元児相職員は指摘する。

 認定NPO法人児童虐待防止協会の山本恒雄理事は「虐待は夫婦関係、貧困、精神疾患などの事情が重なって起きており親子関係の改善だけでは限界がある」と指摘。「児相も受講を条件に家庭復帰を安易に認めてしまい、子どもの安全評価が鈍る恐れがある。十分な注意が必要だ」と話している。

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■虐待経験者「心の傷ケアを」

 「虐待する親には自らも虐待を受けた人が多い。心の傷のケアが必要なんです」。7年前、児童相談所にわが子を保護された福岡市の女性(44)は再発防止プログラムについてそう求めた。女性は幼少期に両親が離婚し、引き取られた実母から「父親に似て嫌い」「ばかに払う学費はない」とののしられ暴力を受けた。生まれたことに罪悪感を抱え、結婚して長女を出産すると育児への恐怖から産後うつに。そのうち、自分が得られなかった愛情を注ぐことに葛藤や嫉妬すら芽生えた。

 夫と離婚後、仕事と育児の両立に疲れ長女を叱責(しっせき)するようになった。泣き声が自分を責めているように感じて再びたたく悪循環。長女が4年生になる頃、交際相手の男性が娘を殴打したのを機に児相が介入した。

 児相では2カ月間、面談を受け、相談員は親身に話を聞いてくれた。「娘の本音を丁寧に教えてくれ、考えを改める必要性に気付いた」。その姿勢を見て児相は娘と再び暮らすことを認めた。ただ、自己否定的な考え方からは抜け出せず、民間のカウンセリングに通った。3年前、実母に積もり積もった苦しみを打ち明け初めて謝罪された。やっと傷が癒えた気がした。

 プログラムが法的に定められても、十分な予算や要員がなければ、一時的な応急処置にとどまるのではないかと懸念する。「私のような親が求めているのは、虐待の背景を知り『大変だったね』と寄り添ってくれる存在。そんな支援を望みたい」

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