「聴く力」後押し 認知症に効果? 福岡大などグループ研究 人の声鮮明に拾うスピーカー導入 発話増え、検査値改善

西日本新聞 医療面

対話支援スピーカー「コミューン」を使ってかるたを楽しむ入所者たち=5月、福岡市東区 拡大

対話支援スピーカー「コミューン」を使ってかるたを楽しむ入所者たち=5月、福岡市東区

「コミューン」を開発した中石真一路さん 坪井義夫・福岡大教授

 認知症と診断された高齢者でも聴力を補助することで認知機能検査の結果が向上するとの研究を、福岡大や広島大の研究グループが続けている。検査は音声で質問するため、難聴の高齢者が聞こえるふりをしてちぐはぐな回答をしてしまい、認知機能が過小評価されている可能性もあるという。難聴は認知症につながる重要な危険因子ともされる。聞こえと認知症の関係を取材した。

 「犬も歩けば―」と読み上げる声に、お年寄りたちが素早く札を取りに動く。認知症高齢者が暮らす福岡市東区の「愛の家グループホーム筥松」。難聴者向けの対話支援スピーカー「コミューン」を使ってかるたを始めると、普段は自室にひきこもりがちな人も笑顔で輪に加わった。

 ホームは昨年6月、コミューン4台を導入。テレビ視聴や、集団で体操やレクリエーションをする際に使っている。あらゆる音や周波が強調される補聴器とは異なり、人の声を拾い上げ、クリアに響かせるのが特徴だという。

 入所者の平均要介護度は2・5、平均年齢85歳で、3分の1に難聴がある。要介護3の女性(87)は補聴器を持っているが、着けたがらないため、会話が成り立たず、部屋に閉じこもりがちだった。コミューンを使い始めると、共同スペースでお茶などを楽しむようになり、発話が増えた。

 他の入所者も、共同スペースにいる時間が長くなり、「お風呂に行きましょう」などの声掛けもスムーズに届くようになった。吉田味令ホーム長(46)によると、職員がサポートしやすい共同スペースにいることで転倒などの恐れが減少。大きな声を張り上げる機会も減って職員の負担は軽くなった。「認知症の重症化も防げるのではないか。もう少しコンパクトになればもっと使いたい」と話す。

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 コミューンは、広島大宇宙再生医療センターの研究員中石真一路さん(46)が開発。2013年12月に販売を始め、公共施設や医療機関など4600施設で9千台が導入されている。

 中石さんは昨年、厚生労働省の補助金を受け、福岡大医学部の坪井義夫教授(神経内科学)らと、聴力低下が認知機能検査(30点満点)に与える影響についての調査を実施。認知症や軽度認知障害(MCI)と診断され、難聴の自覚がある75歳以上の高齢者27人に対し、コミューンを使って再検査した。

 この結果、21人の検査結果が向上。平均2・2点アップ、6点上がった人もいた。軽度認知症と診断された10人がその疑い、軽度認知症の疑いとの診断だった2人は正常という結果に変わった。

 中石さんは「難聴の進行が認知症の進行と勘違いされるケースはかなりあるのではないか」と指摘。坪井教授は「診断は脳の画像や生活状況などを含め総合的に行われるが、質問が正確に聞こえずにきちんと答えられなかった人もいるだろう。70歳を超えると半分以上に難聴があるとされ、かなりの人が過小評価されているかもしれない」とみる。

   ◇   ◇

 そもそも難聴と認知症の関係については、国際会議で「予防できる要因の中で、難聴は最も大きな危険因子」と発表され、厚労省の認知症施策推進総合戦略(15年)で加齢や糖尿病などと並んでリスクとして挙げられている。会話など外部からの刺激が減り、脳の活動の機会が奪われることが一因と推測される。

 今後、坪井教授らは福大耳鼻科とも協力して、聴力がどの程度落ちると認知機能検査に影響するのかといった研究を続けるという。中石さんは「難聴を早めに見つけ、聞こえの質を効率的に支援することで認知症の重症化予防にもつながる可能性が高い」と話している。

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