空想世界の古里 北九州 長谷川 彰

西日本新聞 オピニオン面

 北九州市八幡東区にそびえる皿倉山は、八幡の人にとっては心の古里のような山だ。そんな山を大胆にも海底に沈め、カプセルで覆って水中都市にする-。そんな未来絵図を描いた小学生がいた。

 横山宏(こう)さん(62)。イラストレーターであり、特にSFやアニメ、模型ファンの間でカリスマ的な造形作家として知られる人である。北九州市漫画ミュージアムで今月23日まで、足跡をたどる初の本格的な作品展が開催中だ。

 29世紀の地球で繰り広げられる独立戦争をテーマにした代表作「マシーネンクリーガー」は、装甲戦闘服や戦車、戦闘機などの模型群が空想世界を形づくる。

 卵形など独特の曲面を持つ造形を基本に、取り付けられた数々のパーツが精密でメカニカルな印象を放つ。鈍いカーキ色の塗装は、砂煙の中で繰り広げられた戦いの重苦しさまでも伝えるようだ。

 「物心ついてから今に至るまで、空想の世界で好きなことを好きなようにやってきたってことですかね」と笑う。

 1956年、八幡製鉄所の地元で生まれた。赤々と溶けた銑鉄や重厚な機械のイメージが脳裏に焼き付いている。

 当時の模型文化にも刺激を受けた。小倉井筒屋には九州の草分け的な模型店があり、店主の井田博さんは66年、日本初のプラモデル専門雑誌「モデルアート」を創刊するなど時代の先駆者だった。

 隣の芦屋町の海岸で日米合作映画「トラ・トラ・トラ!」のロケが行われ、現地に組まれた空母赤城、戦艦長門の巨大セットに目を奪われたこともあった横山さん。

 そうした環境下、アトムや鉄人、ゴジラやウルトラマンなど、テレビや映画を見終えるや、記憶を頼りに絵に描いた。飽き足らず身の回りにある材料を使って立体工作まで。「絵を描いていると立体化するヒントが浮かび、工作しているうち絵をよりリアルにするアイデアが湧いた」

 武蔵野美術大の非常勤講師も務める横山さんは学生に、平面と立体空間を自由に行き来して表現することでアートは磨き上げられる、と説く。「北九州市という土壌、場の持つ力が、私の創造力の基礎を育ててくれた気がします」

 70年代後半から、製鉄所の生産縮小などで「鉄冷え」と呼ばれる沈滞ムードが広がり、「北九州は文化砂漠」と自嘲気味に語られた時期があった。ただ、横山さんの世界に触れると、改めてこの街の懐の深さを認識させられる。SFに興味のない人でも、横山少年の「皿倉山未来図」の前に立てば、それを実感できるはずだ。 (論説副委員長)

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