川崎の事件「胸つぶれる思い」 福岡・老司小の元校長松永さん

西日本新聞 社会面

 「子どもの安全」「通学路の安全」をどう守るか。川崎市の児童殺傷事件は、地域に、大人に、あらためて課題を突き付けた。2003年に小学生を狙う通り魔事件が起きた福岡市南区では、子どもを見守る「5千人作戦」が受け継がれている。被害児童が通った老司小の校長だった松永元佳さん(69)=福岡県須恵町=に、試行錯誤を重ねた当時の状況、今回の事件を見つめる思いを聞いた。

 16年前の5月12日、五月晴れの日。「お宅の子どもが助けを求めて家に飛び込んで来た」。登校児童を校門で迎えていた松永さんのもとに、連絡が入った。

 「本当にびっくりして。想定外の事件に何をどうすればいいのか分からなかった」。抱えるほどの当時の資料をめくり振り返った。

 福岡県警は3日後の5月15日、犯人の男を逮捕したが、地域の不安、動揺は大きかった。

 「事件前は児童が個別に登下校していたが、保護者に引率してもらうよう協力を求める手紙を計3回出した。親と地域の目を光らせる方法しかなかった」。事件当日の夜、地元の公民館長は「困難に立ち向かうため協力させて」と申し出た。ボランティアも見守りに加わった。

 ただ、共働きが当たり前の時代。継続するには保護者の負担が大きかった。

 「1カ月ほどして、保護者から『仕事や介護があり、毎日は大変』『特定の保護者に負担が集中する』との声が出始めた」という。松永さんはそこで、登校時はPTAのメンバー、下校時は教諭が児童を引率する方法に変更、見守りも自主的に参加できる仕組みに工夫した。同小は今も集団登校を続けている。学校、地域の熱意が福岡南署も突き動かし「5千人作戦」にもつながった。

 「事件を機に地域の防犯意識が高まり、老司が先進的と言われた。学校だけでは限界がある。地域の協力は本当にありがたかった」

 老司小の事件から16年。川崎の事件でも児童が犠牲となった。二度と児童が通り魔被害に遭ってはならないとの思いで対応してきた松永さんは「胸がつぶれる思い」と悔しがる。「学校関係者の歯がゆい気持ちが痛いほど分かるし、むなしさも感じる」

 手を尽くしてもわずかな隙間が狙われて被害を受けることがある。でも、諦めたら終わり。教職から離れて10年近く。当時も今も大切にしてきたのは「わが子だけではなく、地域の子として見守る姿勢。大人が最大限努力して目を配り、声を掛け続けてほしい」。「子どもの安全」に終わりはない。

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