高齢者の事故 免許返納の環境整えたい

西日本新聞 オピニオン面

 高齢者の運転による衝撃的な交通死亡事故が、今度は福岡市早良区で起きた。

 事故を起こした車を運転していた男性(81)と同乗の妻(76)が亡くなり、巻き込まれた7人が負傷した。知人らによると、男性は健康状態に問題はなかったものの、そろそろ運転免許を返納すべきかどうか、迷っていたという。

 男性の車は、前を走る車に1度追突した後、反対車線に入り、猛スピードで600メートル以上も逆走して交差点に進入、複数の車に激突した。目立ったブレーキ痕はなかったという。

 にわかには信じられない事故の状況だ。その時、男性に何が起きたのか-。捜査の進展を待つほかないが、免許の所有をためらう中で悲惨な事故を招いたことが悔やまれてならない。

 高齢ドライバーによる事故は、高齢化のさらなる進展で深刻さを増す社会問題である。

 警察庁によると、75歳以上を見た場合、免許保有者は540万人余と10年間で、実に2倍になった。死亡事故を起こした件数は年間400件台で高止まりしている。原因はハンドル操作ミスが最も多い。高齢になるほど視力など認知機能が低下し、運転するのが難しくなる。

 75歳以上は免許の更新時や、信号無視など一定の違反があった場合に、認知機能検査が義務付けられている。検査結果を踏まえ、医療機関で認知症と診断されれば免許が取り消される。

 実車講習などを経て免許を更新できた人でも、事故を起こすケースは後を絶たない。次の更新期を迎える3年後までに、認知機能が低下している恐れもある。検査の頻度を増すなど制度を改善していく必要があろう。

 75歳以上の免許返納件数は、年間25万件を超える。さらに返納しやすくする環境づくりを進めることが大切である。地域内を周回するコミュニティーバスの拡充や、バス、電車、タクシー利用時の補助充実などだ。

 ただ、公共交通機関が行き届かず、自分で車を運転しなければ買い物や通院ができない地域は多い。外出機会が減れば心身の健康への影響も心配される。

 自動車業界は、車の事故防止機能の強化にしのぎを削っている。完全自動運転や自動ブレーキ機能付きの車に買い替える際の補助金導入なども今後、有効になろう。

 現在の高齢者は、マイカー時代の先頭を走ってきた世代である。車の運転にプライドや生きがいを感じる人も多い。

 それでも運転に迷いが生じているようなら、家族や知人は、先に挙げたような具体的な代替え案を示した上で、積極的に免許の返納を勧めてみたい。

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