「ぞうさん」が描く宇宙 鶴丸 哲雄

西日本新聞 オピニオン面

 「やぎさんゆうびん」「ふしぎなポケット」など数々の心温まる童謡で知られる詩人まど・みちおさん。2014年に104歳で亡くなった。出身地の山口県周南市にある市美術博物館の有田順一館長から、あの国民的童謡「ぞうさん」の歌詞に秘められた作者の真意を伺った。

 〈ぞうさん ぞうさん おはなが ながいのね そうよ かあさんも ながいのよ〉

 これが1番の歌詞。ゾウは鼻が長いのが当たり前である。この童謡は、子ゾウと人間の子のほのぼのとした会話-そう受け取っていた人が多いのではないか。すると、有田館長から思わぬ一言が。

 「実は差別的な悪口を言われた子ゾウの歌なのです」

 まどさんの後日談などによると、地球上には、ゾウのように鼻が長い動物は、ほかに存在しない。そうした状況で「おまえは鼻が長い」と言われたなら、「おまえだけ変わっている」「格好悪い」と言われたも同然。反発するのが普通であろう。

 だが、この子ゾウは「そうよ」と明るく受け流し、「母さんも長いのよ」とうれしそうに付け加える。この世で一番好きな母親と同じ身体的特徴を持つ喜びを、誇らしげに伝えているのだ。

 それはなぜか-。まどさんは「このゾウがかねがね、ゾウとして生かされていることを幸せに思いありがたがっているから」と語っている。ゾウに限らず全ての動物や植物、石ころや砂までもが、皆それぞれの個性を持たされ、生かされている。それがまどさんの宇宙観であり、そのあまたの一員の中に人間もいる。

 同館では、まどさんが50代に描いた抽象画群も見た。童謡から詩へ本格的に転向し苦悩した時期という。つかれたように描かれた川の模様が印象的だった。有田館長によると、まどさんは晩年に周南を訪れた際、いつも同じネクタイをしていた。「詩一本で生計を立てるのは、昔も今もすごく大変なこと。足るを知る暮らしを実践しつつ、いろんな葛藤を抱えて創作していたと思います」(有田館長)

 今年は、まどさんの生誕110年。人間を含む宇宙の全てのものは、等しくてかけがえのない存在-。そんな単純な真理を、まどさんの詩と童謡は私たちに教えてくれる。

 最後に「どうして いつも」という詩を紹介したい。

 〈太陽 月 星 そして 雨 風 虹 やまびこ ああ 一ばん ふるいものばかりが どうして いつも こんなに 一ばん あたらしいのだろう〉

 まどさんの「宇宙」は、古びない。 (編集委員)

PR

PR

注目のテーマ