【DCの街角から】恐怖心を背に学ぶ「自由」

西日本新聞 夕刊

天安門事件30年の集会で壇上に立ち、闘争の継続を訴える王丹さん。王さんが期待を寄せる中国人の若者の姿はほとんどなかった 拡大

天安門事件30年の集会で壇上に立ち、闘争の継続を訴える王丹さん。王さんが期待を寄せる中国人の若者の姿はほとんどなかった

 30年前の6月4日に起きた中国・天安門事件の学生リーダーで米国に亡命した王丹さん(50)に先月、インタビューした。王さんは事件後、当局の指名手配名簿の筆頭に挙げられた人物。取材では時に過激な言葉も飛び出すかと構えたが、実際は静かな語り口が印象的だった。

 ただ「短期的に見れば中国の民主化への希望は全くない」と語るなど言葉の端々に歯がゆさがにじんだ。特に中国の若者については将来の行動に期待を寄せる一方、強い懸念も示した。「今の若者は中国共産党の抑圧によって政治への恐怖心があり、中国の民主主義や自由に関心を払わない。これでは未来はない」。そう指摘した時は、言葉に少し熱がこもった。

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 この冬から春にかけて、中国人の留学生たちに取材できないかと接触を試みたことがあった。「自由」が当たり前の米国で学ぶ中国人が、貿易戦争状態に陥った米中関係を含め、現在の中国をどう見ているのか、率直な声を聞きたかったからだ。

 だが結果は全て失敗。「匿名ならどうか」と食い下がっても「中国に住む親の了解が必要」と答える学生もいた。取材に応じれば中国政府から問題視され、親に迷惑がかかるのではないか-。学生の心境はそんなところかと推察した。これが王さんの言う「恐怖心」なのだろう。

 それでも、米国で暮らし「自由」を実感する学生は間違いなくいる。王さんの取材から1週間後、ワシントンであった人工妊娠中絶の権利を訴える集会で中国人男子学生の参加者を見つけた。声を掛けると「米国には多くの自由がある。中絶は人間の身体に関することだから、個人の自由が大事にされるべきだ」。追加質問には応じず、名前も聞けなかったが、母国と米国とを比べ「自由とは何か」を真剣に考えているように映った。

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 4日、連邦議会前で開かれた天安門事件の糾弾集会では、壇上の王さんら活動家を遠くから無表情で見つめる2人の中国人男子学生がいた。2人はスマートフォンを構え、王さんが「私たちは決して諦めない。必ず再び立ち上がる」と訴える様子を写真か動画に収めていた。感想を聞くと「事件のことは米国に来て初めて知った。今日はただ大学の先生に言われて来ただけだ」と早口でまくしたて、それ以上は口をつぐんだ。

 何のために撮影したかは分からない。ましてや彼らがいつか民主化を求めて行動するかどうかなど知りようもない。だが今、米国内に約35万人いるとされる中国人留学生の中に、ごく少数かもしれないが、中国の現状に疑問を抱く若者がいても不思議はない。だからこそ、王さんも希望を失わずに闘い続けられるのだろう。 (田中伸幸)

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