RKB神戸君の仕事

西日本新聞 オピニオン面

 3年前の7月、相模原市の知的障害者施設に元職員が侵入し、入所者19人を刺殺する事件があった。

 逮捕、起訴された植松聖(さとし)被告(29)は犯行前、「障害者は安楽死させた方がいい」などと主張していた。極端な差別意識に基づく犯行として社会は衝撃を受けたが、なぜ彼がそんな思想を抱いたかなど、詳しい背景は解明されていない。

 その植松被告に面会を重ね、事件について問い続ける記者がいる。RKB毎日放送の東京報道制作部長、神戸(かんべ)金史(かねぶみ)君(52)だ。

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 神戸君には自閉症などの障害のある息子がいる。

 2017年、神戸君は拘置所の植松被告に手紙を書き「障害者の家族である私に対して『なぜ事件を起こしたか』を自分の口で説明してみたいとは思いませんか」と面会を提案した。

 植松被告はこんな挑発的な返事で面会に応諾した。「自分の子どもがかわいいのは当然かもしれませんが、いつまで生かしておくつもりなのでしょうか」

 神戸君は同年12月から今年2月まで、6回にわたって植松被告と面会。植松被告はこう話したという。

 「障害者は間違っています。今後人の役に立つことはできない。安楽死、尊厳死を考えるべきです」

 「身内に障害者がいる人は正常な判断ができないんです。現実見ましょうよ」

 神戸君が気付いたのは、植松被告が徹底的に「役に立つ人」と「役に立たない人」との間で線を引き、人間を分けて考えていることだった。神戸君はその都度「それは違う」と反論するが、植松被告は考えを変えない。一連の取材を経て、神戸君はこう語る。

 「植松被告の言うことは一見、分かりやすく聞こえるかもしれないが、浅はかだ。薄っぺらな知識で重大なことを判断している」

 「誰しも心の中に差別の心、内なる優生思想を持っていると思うが、それを認めてしまうと、社会は人間らしさを失ってしまう」

 取材の成果は1時間のラジオ番組として今年3月に放送され、このほど放送文化基金賞ラジオ部門の最優秀賞を受賞した。

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 神戸君と私は旧知の間柄だ。雲仙・普賢岳噴火の際、他の新聞社の新人記者だった彼と毎日のように現場で顔を合わせていた。今回「君付け」にしているのは当時からの習慣である。

 先日、神戸君に会って「どうしてこんなにしんどい仕事ができるのか」と聞いた。正直、私にはこの奇怪な思想の人物と何回も向き合う自信はない。

 「いやあ、僕自身も面会の後はすぐに立ち上がれない。次に会おうと思うまで時間がかかるんですよ」。それでも続けるのは「半分は記者であり、半分は親であるから」だという。

 社会の常識を超えた事件が起きると、われわれの社会は「引きこもり」とか「ネット依存」とか、分かりやすいストーリーを探し出して安易に納得しようとする。それができない時は「心の闇」で片付ける。

 なぜわれわれの社会が、このような犯罪を生み出したのか。次の犯罪者を出さないために何をすればいいのか。安直な答えを拒否し、苦労の多い取材によって、社会全体で考えるための材料を積み上げていく。神戸君がやっているのは、そんな仕事だ。

 (特別論説委員)

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