誤嚥性肺炎 口腔ケアで防げ 福岡市の歯科医師たちが提唱 介護施設で導入続々

西日本新聞 医療面

 高齢者の死因に多い誤嚥(ごえん)性肺炎を防ごうと、福岡市の歯科医師たちが介護施設向けに始めた「口腔(こうくう)ケア」が注目されている。取り組んだ施設では発症者が減少、施設の運営も改善し、医療費の削減にもつながる成果が上がった。導入する施設も広がっている。

 福岡市西区の特別養護老人ホーム「マナハウス」。「ちょっと口の中、見せてもらっていいですか」。介護福祉士の山村和浩さん(28)がベッドに寝ている男性(97)に声を掛け、専用のジェルを塗って口内をもみほぐしていく。男性は胃ろうで栄養を取っているため口の中が乾燥しやすく、たんなど汚れがこびりつくことが多いという。山村さんがブラシで汚れを除去していくと、「あー」と男性が気持ちよさそうに声を上げた。「声に元気が出て、口臭も少なくなりました」と山村さんはほほ笑む。

 69床あるマナハウスでは2017年度から、全入所者に介護職員が週2回、ブラシで汚れを取り除き、口の中をマッサージする5~10分のケアを実施。唾液の量や粘度、舌の色、食べかすの残り具合など口内の状態を8項目で数値化する表を用い、ケアの内容をチェックしやすくしている。

 「はっきり成果が出ている」と小金丸誠施設長(45)は話す。のみ込む力が低下し、口内の細菌が唾液や食べ物と一緒に気管に入ることで起こる誤嚥性肺炎を発症する入所者が多かったが、口腔ケアの導入で減ったという。16年度に入所者が肺炎で入院した日数は延べ545日で誤嚥性が大半を占めたが、17年度は144日になった。

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 マナハウスの口腔ケアを指導したのは、福岡市の歯科医師、瀧内博也さん(36)だ。介護施設に口腔ケアを広める「誤嚥性肺炎ゼロプロジェクト」に17年から取り組んでいる。

 プロジェクトでは介護職向けに2時間半の講習を行い、週2回のケアを続けてもらう。ケアが定着しやすいように工夫も凝らす。使う道具やケアの手順をマニュアル化。九州大芸術工学部の卒業生たちが設立した福岡市のベンチャー企業「ワンソード」と協力し、分かりやすいマニュアルの動画や講習向け資料を作った。訪問診療に対応する歯科とも連携し、歯科衛生士が定期的に訪問して技術指導する態勢も整えた。

 厚生労働省の17年人口動態統計によると、誤嚥性肺炎は死因で7番目に多い。5番目に多い肺炎の中にも誤嚥性が相当数含まれているとみられる。「適切な口腔ケアで口内の雑菌を減らしてのみ込む力を維持できれば、誤嚥性肺炎は防げる」と瀧内さんは強調する。

 瀧内さんは、福岡歯科大の高齢者歯科の研究職として介護施設を訪問するうちに、誤嚥性肺炎発症者の多さに直面した。6施設で1年間調査したところ、入所者の約2割が発症していた。誤嚥性肺炎の予防には口腔ケアが有効なことは医学界では知られていた。ところが、介護現場では知識が浸透していないのが現状だった。

 「ケアの方法をよく知らず、手間だと考える職員が多い。誤嚥性肺炎の発症が減れば、入院の対応など急な業務も少なくなって現場の負担減にもなる、という証拠を示して職員に納得してもらうことが大切」。瀧内さんはプロジェクトのポイントを語る。

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 入所者の入院中は介護報酬が入らないため、入院が減ると施設の収入は増える。マナハウスでは入所者1人当たり1日約1万4千円。17年度、肺炎による入院日数減少分で約560万円の増収効果があった。仮に入院した場合は1日約5万円の医療費がかかるため、医療費は約2千万円が減った計算になるという。

 「入所者の健康状態が良くなり、職員のやりがいが増した。離職率も低くなった」と小金丸さん。全国の高齢者福祉施設の研究発表大会でも発表し、高く評価された。

 5施設で始めたプロジェクトは徐々に広がり、現在は福岡、熊本、埼玉3県の17施設が参加している。瀧内さんは「簡単なケアの積み重ねで多くの命が救えることを広めたい」と意気込んでいる。

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