主人公よりも強烈…! 超ド級の女傑たちが火を噴く歴史小説

西日本新聞

 『始皇帝』『光武帝』など、これまでも中国史上の傑物たちの生涯を描いてきた著者の新刊が登場した。今作の主人公は玄宗(げんそう)皇帝。唐の最盛期を築いたことで知られる人物である。物語は彼の誕生から死までが、日本を含めた当時のアジアの政治状況も絡めながら、登場人物60人を超えるスケールで語られる。

 ところが、である。この玄宗皇帝、いまいちパッとしないのだ。確かに祖母でもある則天武后(そくてんぶこう)亡き後の混乱を鎮め、そこから皇帝に上り詰めるまでは、きらめくような機知と行動力を見せる。だが、そこまでなのだ。皇帝即位後、数々の政策が奏功し、「開元の治」と呼ばれる唐の最盛期を創り出したものの、実際に政策を打ち出していたのは補佐役の宰相たちだったりする。端的に言うなら、歴史小説の主人公として終始どこか役不足の印象が拭えないのだ。

 ではこの小説自体が精彩を欠くのかといえば、そうではない。王族、貴族、官僚、宦官(かんがん)入り乱れての謀略と裏切り渦巻く血みどろの政権争いに、読者は必ずや驚きと興奮を与えられるだろう。ただしその中で最も強い印象を残すのは、主人公の玄宗皇帝ではなく、彼の周囲の人物、とりわけ女性たちなのである。

たとえば則天武后。玄宗皇帝の幼〜青年期に権力の頂点に立っていた彼女は、政治家としても一人の女性としても強烈だ。権力奪取のためには血を分けた一族であっても容赦なく処刑する。不満分子たちは互いに争わせるように仕向け、自滅させる。私生活では還暦を過ぎても若く優秀な男を見つけて妾にする。

 あるいは楊貴妃(ようきひ)。世界三大美女の一人とされる彼女は、その美貌で2世代も上の玄宗皇帝をとりこにし、翻弄し、唐を崩壊寸前にまで導く反乱のきっかけをつくってしまう。

 もちろんこの2人だけではない。さんざん浮気を重ねた挙げ句、発覚を恐れて毒入り饅頭で夫を殺害する皇后をはじめ、本作で描かれるのは超ド級の女性たちが国のトップで幅を利かせていた時代なのである。この玄宗皇帝の一代記、あえて副題を付けるなら、プルーストの「花咲く乙女たちのかげに」ならぬ、「火を噴く女傑たちのかげに」がふさわしいかもしれない。ふだん歴史小説になじみのない女性にも読んでほしい作品だ。

 

出版社:潮出版社
書名:玄宗皇帝
著者名:塚本靑史
定価(税込):1,944円
税別価格:1,800円
リンク先:http://www.usio.co.jp/books/paperback/19144

 西日本新聞 読書案内編集部

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