絶望の中に希望がきらめく――存在の根本を問う心の物語

西日本新聞

 駅のホームで隣り合う人や横断歩道の向かいにいる人。あるいは、家を持たない野宿者や、自分の居場所を探し求め風俗にたどり着く女性。私たちの周りには、常に他者がいる。他者である彼ら彼女らにもそれぞれの人生があり、みんなその人生を懸命に生きている。それでも、私たちは自分の人生を生きるのに必死で、自分以外の他者をつい忘れがちになってしまう。本作は、人は関係性の中で存在足り得ること、人がこの世に存在する意味を思索する小説であり、哲学書でもある。国内外でベストセラーとなっている『あん』の著者渾身(こんしん)の作品だ。

 多摩川の河川敷で、仲間のホームレスと生活を共にする望太。そこからさほど遠くない街で、世の中に対する怒りとむなしさ、そして孤独を抱えて暮らす女子高生の絵里。このふたりの視点で描かれる場面が交互に進み、次第にふたりの過去が明かされていく。人生に絶望しながらも何かを求めるようなふたりの気持ちが描かれる中で、少しずつふたりのつながりが明かされていくストーリーには、読むスピードを上げるほどの面白さがある。

 作中では、一般人によるホームレス襲撃事件をはじめ、DVや性依存症、合法ドラッグなど、現代の日本にはびこる社会問題が描かれている。流し読みできない重たい内容を取り上げているが、それでも読み進める手を止めさせない著者の筆致はさすがである。文字、文章が映像を思い起こさせてくれるのだ。風景描写は実に細やかで、まるで実際の多摩川、もしくはガンジス川の流れを見ているかのような感覚に陥る。また、人間描写、例えばホームレスの臭いや風貌もリアルであり、個性豊かな登場人物の表情も想像しやすい。

 ラストに衝撃は走りながらも、その描写さえ繊細で美しい。「どうしようもなくなったら泣いて愚痴って文句を言えばいい」という絵里の言葉に、救われる読者も多いことだろう。なぜ私たちはここにいるのか、人とは何か、幸せとは何か。そうした問いを持つすべての人に読んでいただきたい一冊である。

 

出版社:小学館
書名:水辺のブッダ
著者名:ドリアン助川
定価(税込):1,600円
税別価格:1,728円
リンク先:https://www.shogakukan.co.jp/books/09386541

西日本新聞 読書案内編集部

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