死んだ元彼女から届いた日記に憑かれていく、ホラー・サスペンス

西日本新聞

 島根県に「天国への手紙」というポストがある。現世と死者の国をつなぐ「黄泉比良坂(よもつひらさか)」とされる場所に設置されており、故人への手紙を送ることができるというものだ。失ってしまったかけがえのない人への想い、願いは尽きないのだろう。では、逆…つまり、死んだはずの人間から、突然日記が届いたとしたらどうだろうか。しかも、凄惨(せいさん)な死に方をした元恋人から。

 ある人物が、ギターの絃(げん)で6回も首を絞められ殺される衝撃的なシーンから始まる本書。半年前に元恋人・内藤茜を亡くした町田輝樹の自宅に茜の書いていた日記が届くというホラー・サスペンスだ。日記には、職場の後輩女性・栗田仁美と付き合い始め、茜を捨てた輝樹への妄執と怨念がつづられていた。茜が亡くなる前日まで「このまま、輝樹の人生から去るわけにはいきません」と続いている日記。さらにその先を読み進めた輝樹は、ありえない書き込みに悲鳴を上げる。

 本書の面白さは、ぞわぞわと迫り来るホラー描写だけにとどまらない。輝樹、そしてその親友の宮本卓郎は極めて論理的に、「誰が日記を送りつけてきたのか?」「何のために日記が綴られたのか?」を探っていく。「茜の霊がいる」とおびえる輝樹と、「お前の作り出した幻覚だ」と冷静に諭す卓郎の問答はさながら推理小説のようだ。「ホラー作品はロジックがおざなりにされがち」という印象が根底から覆される巧みな伏線も、ページを繰る手が止まらなくなる理由のひとつだろう。

 断言してもいい。読んでいる間一度は「だまされた!」と唸(うな)らずにはいられない。それほどまでに状況は二転三転し、読者は著者の掌の上でいっそ気持ちいいほど踊らされる。そして、茜に苦しめられる輝樹は絶望のふちで真実に気づき、卓郎は茜の死の真相にたどり着く。

 茜の情念と怨念が詰まった不気味な日記は、ラストの一文字に到るまで読者を恐怖で絡め取るのだ。ちょうど、ギターの絃で被害者が首を絞め上げられたように。

 

出版社:双葉社
書名:かげろう日記
著者名:吉村達也
定価(税込):610円
税別価格:565円
リンク先:https://www.futabasha.co.jp/booksdb/book/bookview/978-4-575-52223-5.html?c=40199&o=&

西日本新聞 読書案内編集部

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