性暴力無罪判決 「抵抗不能」見直しを急げ

西日本新聞 オピニオン面

 不幸にも性暴力に遭ったとき、人はどう抵抗するのか。通りすがりの男2人組にレイプされた小林美佳さんが、実名で著書につづっている。

 〈大声なんて、出ない。出せない。不思議なことに、自分の身体なのに、どう動いていいのかも解(わか)らず、金縛りみたいに動けなくなっていた〉

 (「性犯罪被害にあうということ」、2011年 朝日文庫)

 抵抗はおろか声も出なかった。小林さんのように、ショックや恐怖のあまり無抵抗になる事例は少なくない。

 性暴力を告発する小林さんらの叫びは、厳罰化を柱とする17年の刑法改正につながった。

 その際、議論の末、大きな課題が残された。

 強制性交や強制わいせつなどの行為が、性犯罪と認められる必要条件は、加害者が「暴行・脅迫」などを用いて被害者を「抗拒(こうきょ)(抵抗)不能」にさせることだ。裏返せば、抵抗できたのに、しなかったのなら犯罪にならないという理屈である。

 その要件は削除されず、今、新たに被害者を苦しめている。

 実の娘に対する準強制性交罪に問われた男に、名古屋地裁岡崎支部が3月、無罪判決を下した。娘の意に反した性交と認めながら、娘が抵抗できなかったとまでは言えないと判断した。

 前後して性暴力を巡る無罪判決が続き、波紋が広がった。福岡地裁久留米支部は「被告は、被害女性が抵抗できない状態だったと認識できなかった」とした。こちらも被害者側の立場に判断の重きを置かなかった。

 被害者らから「暴行・脅迫」「抗拒不能」の要件削除や、同意のない性行為を処罰できる法整備を求める声が起きた。

 専門家の間には、冤罪(えんざい)を生む恐れがある、との指摘がある。単に「意に反する性交は処罰」となれば、当時は双方が同意していても、後に感情のもつれなどから一方の側が同意していなかったと主張し、無実の人が訴追される懸念が生じる-。

 確かに一理ある。しかし、支配・被支配の関係にあった父娘間の事件を審理した岡崎支部の場合でも、要件の機械的解釈としか思えない判決が出ている以上、被害者の心理をもっと研究し、要件緩和や見直しに向けて議論を加速させるべきである。

 性犯罪で守るべき法益は被害者の「性的自由」とされる。欧米には脅迫などなくても不同意が立証されれば性犯罪と認定する国がある。

 日本で犯罪被害者全般を守る基本法が制定されたのは、2000年代半ばだ。歴史が浅い。一連の判決に、法が守るべき「正義」は何かという視点はあったのか。強く問いたい。

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