失われない「野生」「命の音」聞こえた 福岡市動物園「動物医療センター」を取材した

西日本新聞 こども面

山崎さん(左はし)の案内で入院室を見学した 拡大

山崎さん(左はし)の案内で入院室を見学した

聴診器でモルモットの心音を聴いた 「食べて元気になってね」と、アオバズクにえさをやった 翼を骨折したアオバズクのレントゲン画像を見た

 福岡市動物園(同市中央区)では約110種450点の動物を飼育しています。けがをしたり病気になったりした動物を治療する園内の“病院”が「動物医療センター」です。普段は入ることができない施設をこども記者が取材し、命の大切さを考えました。

【紙面PDF】失われない「野生」「命の音」聞こえた

 消毒液に靴底をひたして建物の中に入ると、獣医師の山崎理恵子さん(46)が出迎えてくれた。センターには4人の獣医師が勤務し、動物の病気やけがの治療と予防に当たっている。1年間の“患者数”を聞くと、「昨年度の治療件数は約5900件でした」。私たちは数の多さに驚いた。

 治療室で山崎さんが動物に使用する注射針を見せてくれた。主に鳥に使用する直径0・4ミリの細いものから大型動物に使用する太いものまでさまざまだ。「動物によってどの治療法や器具が適しているのか慎重に見極めています」という山崎さんの言葉に、動物が人間と同じように大切に扱われていると感じた。

 ■野生動物も治療

 検査室に行くと、血液や寄生虫などの検査に使う器材と薬があった。鳥類の性別を調べるのは難しく、遺伝子検査で判定することもあるという。治療中の動物がいる入院室に行くと、体調を崩したモルモットがいた。聴診器で心臓の音を聴くと、人間の倍くらいの速さだった。「これが命の音」と実感した。

 センターは県から委託を受けた「傷病野生鳥獣医療所」として、保護された野生動物の治療も行っている。翼を骨折したアオバズクにえさをやる体験もした。傷つき野生に戻すことが難しい場合は、園で飼育すると聞き、ほっとした。「鳥のひなを見つけたので保護して」という連絡もあるが「近くに親鳥がいるので保護すると『誘拐』になる。そのままにしておいて」と答えるそうだ。

 ■死を無駄にせず

 「動物の健康状態を正確に知るのは難しい」と山崎さんは言う。飼育された動物でも野生は失われない。自分の弱みを他の動物に見せることは「死」につながる。獣医師の前では動物は元気なふりをするので「動物の様子をしっかり見ている飼育員さんとの連携が欠かせません」と語った。

 それでも動物との別れはやってくる。山崎さんは「解剖して死因を調べ、治療に役立てることで死を無駄にしない」と力を込め、「つらいけれど、とても大切な仕事です」と少し悲しそうにほほえんだ。私たちに多様な命と自然の大切さを教えてくれる動物園は、獣医師や飼育員の努力と涙で支えられていると知った。

山崎獣医師に聞く 「観察力身に付けて」

 山崎さんに獣医師を目指した理由を聞くと「子どものころインコや犬を飼っていた。死ぬたびに『私が治療してあげられたら』と思い、この道に進みました」と答えた。獣医師や動物の研究者が書いた本にも大きな影響を受けたという。

 福岡市動物園に勤務して3年目。同市の食肉衛生検査所や保健所の環境衛生部門、下水道の水質検査などさまざまな仕事を担当し、夢をかなえた。獣医師の仕事のやりがいを聞くと「治療で動物が元気になるとほっとする。赤ちゃんが無事に生まれたときもうれしい」と答えた。

 獣医師になるには何が大切かと聞くと「子どものうちに外でよく遊んで、観察力を身に付けること」と答えた。「身近に野鳥がたくさんいることに私たちは気付いていない。見よう、声を聞こうと意識することで見えないものが見えてくる」と教えてくれた。

 ●わキャッタ!メモ

 ▼獣医師になるには 高校を卒業後、獣医学部や獣医学科がある宮崎大、鹿児島大など全国17の大学に進学。6年間勉強して卒業後、獣医師国家試験に合格して、獣医師免許を取得しなければならない。福岡市動物園の獣医師になるには、同市の公務員になることが必要。

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