逆走の数十秒間に何が 記録機器なく 福岡市の9人死傷事故

西日本新聞 社会面

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事故見取り図

売り上げが急増している安全装置=10日、福岡県内の車用品店

 福岡市早良区百道の交差点付近で車6台が絡み9人が死傷した事故から11日で1週間。乗用車が猛スピードで約700メートルを逆走し、交差点に突っ込む数十秒間に何があったのか。運転していた小島吉正さん(81)は死亡し、真相を語ることができない。乗用車に走行を記録する機器なども搭載されておらず、捜査は長期化の様相。操作ミスか体の異変か、手掛かりはそう多くない。車用品店では安全装置の売り上げが急増し、自己防衛する高齢ドライバーも増えている。

 「すごいスピードだった。自分の車がぶつかっていたら…」。4日午後7時ごろ、県道を交差点方向に走行していた70代男性は「ガシャ」という後方の衝撃音を聞いた。直後、乗用車に右側から猛スピードで追い抜かれた。男性の車のドライブレコーダーは、この追突事故後の乗用車の動きを捉えていた。

 乗用車は追突事故後に反対車線にはみ出して逆走、加速しながら直進し、計4台に衝突、弾みでもう1台と歩行者も巻き込み7人が負傷した。目立ったブレーキ痕もなく、ある県警幹部は「時速100キロは出ていただろう」とみる。

 ただ、乗用車にはドライブレコーダーや、ブレーキやアクセルなどの操作状況を自動記録するイベントデータレコーダー(EDR)などもなく、時速も分かっていない。

 そのため県警は目撃者や周辺の防犯カメラ、関係車両のドライブレコーダーに望みをつなぐ。捜査関係者は「客観的証拠を積み重ねるしかない。捜査は半年以上かかる」。

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 警察庁によると、高齢者による死亡事故のうち事故原因で最多は運転操作ミスだ。ハンドル操作ミスとブレーキの踏み間違いが大半を占める。踏み間違いは、昨年全国で1560件、九州で288件起きた。

 小島さんの乗用車が加速したことを踏まえ、踏み間違いの可能性について、九州大の志堂寺和則教授(交通心理学)は「逆走の距離が長すぎて不自然」と否定。「追突事故で足の位置がアクセルにずれてパニックとなり、戻せなかったのでは」と推測する。

 小島さんは既往歴がなく、脳梗塞など事故につながる病気なども見つかっていない。ただ、司法解剖でも分からない“異変”もあり得ると話すのは東京女子医科大の木林和彦教授(法医学)。「認知症で操作を誤った可能性もなくはない。自覚がない高齢者も多い」と指摘する。

 乗用車は2000年製造で14万キロを走行。現段階で車の不具合は見つかっていないが、フロント部分の損傷が激しく詳細な分析が必要という。県警はメーカーなどと不具合を調べ、部品の分解なども行う方針だ。

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 「急発進防止装置 高機能タイプ」‐。車用品店「オートバックス合川バイパス店」(福岡県久留米市)には踏み間違いを防ぐ安全装置が並ぶ。

 装置は停車時などにアクセルを一気に踏み込んでもエンジンの回転数が上がらない仕組み。価格は3万~4万円。4月、東京・池袋での暴走事故後、全国で売り上げが増え、5月は前年同期の26倍に。合川店でも4月以降の売り上げが昨年度1年分の5倍に達した。「大半は65歳以上。不安がる家族に連れられて来店するケースも多い」(広報)。

 熊本県玉名市では11年度から、地元企業が開発した踏み間違い防止装置(約20万円)の購入者に5万円を補助。福岡県うきは市も4月から70歳以上を対象に急発進防止装置の購入費を半額補助している。市民協働推進課の古賀一聡係長は「地方の高齢者には車が生活の足だ。予防策を徹底してほしい」と話した。

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