老後2000万円問題 「100年安心」はどこへ

西日本新聞 オピニオン面

 老後は年金で生活していけるだろうか。よほどの富裕層でなければ誰もが将来に不安を抱えている。そこに「公的年金の水準は今後調整されていく。2千万円の蓄えが必要」と言われたら…。「年金は『100年安心』と言っていたはずだ」と憤った人も多いのではないか。

 金融庁の審議会が出した報告書「高齢社会における資産形成・管理」のことだ。高齢夫婦(夫65歳以上、妻60歳以上)の無職世帯の平均的な姿として、毎月約5万円の赤字になり、「人生100年時代」を迎え、30年間で約2千万円の金融資産の取り崩しが必要と記してある。

 老後に備えた資産の形成・管理の大切さを訴え、「貯蓄から投資」への流れを後押しするのが狙いの報告書だが、「2千万円」「赤字」といった記述がクローズアップされ、国民の不安をかき立てる形になった。

 2004年度の年金制度改革で、自公連立政権が「100年安心」とアピールしたことが背景にある。現在の年金制度は、現役世代が負担する保険料で高齢者への年金給付を賄う方式だ。少子高齢化が進み年金の支え手が不足していくので、制度改革で給付水準の抑制策「マクロ経済スライド」を導入した。

 年金額は元来、物価と現役世代の賃金がともに上昇した場合は増額する仕組みだが、その際の引き上げ率を、現役人口の減少率などに応じて抑えるようにした。政府は、これで制度が安定するとして「100年安心」と強調していたのだ。

 問題は、このキャッチフレーズを巡る認識の違いだ。多くの国民には、老後に「安心」できる年金の給付水準が保たれるか否かが関心事だろう。政府が言うのは制度の運営者としての「安心」だ。給付水準の問題は別の話である。求められるのは、この溝を埋める丁寧な説明だ。

 ところが政府の対応が火に油を注ぐ。麻生太郎金融担当相は「誤解や不安を与えるような書き方で、不適切だった」と文章表現の問題にすり替えようとした。安倍晋三首相は、参院決算委員会で野党から「100年安心はうそだったのか」と追及され、「公的年金の信頼性はより強固になった」と強弁した。

 自民党は金融庁に抗議し、麻生氏は報告書を受け取らないと言いだした。参院選の争点化を避けるため、報告書をなかったことにしたいのだろう。

 今年は5年に1度、年金財政の健全性を検証する年に当たるが、10年前、5年前と比べ、検証結果の公表が遅れている。選挙対策のために先送りするようでは、責任ある政治とは言えない。年金財政の現状と見通しを速やかに説明すべきだ。

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