「慰安婦」は現代の性差別につながる 論争描くドキュメンタリー映画「主戦場」 「日常で語り合えること大切」 福岡でトークイベント

西日本新聞 くらし面

 旧日本軍の従軍慰安婦問題を取り上げたドキュメンタリー映画「主戦場」が全国で公開され、反響を呼んでいる。KBCシネマ(福岡市中央区)では上映が始まった8日、「『慰安婦』問題にとりくむ福岡ネットワーク」のメンバーで大学講師(ジェンダー論)の木下直子さんと、西南学院大准教授(政治学)の田村元彦さんのトークイベントがあった。戦時下の性暴力が世界的な関心を集める中、慰安婦問題は現代の性差別とつながっているとして、木下さんは「日常から語り合えることが大切だ」と強調した。

 監督は動画サイトへの投稿が注目される「ユーチューバー」で日系米国人のミキ・デザキさん。20万人とされる慰安婦数の正否、強制連行の有無、「性奴隷」という表現の是非、証言の真実性といった、慰安婦問題で論争の種となるキーワードを巡り、歴史研究者やジャーナリスト、国会議員、タレントなどにインタビューした映像で構成した。全国で観客の入りは好調で、公開期間の延長やアンコール上映をする劇場も相次ぐ。福岡でも午後からの上映に朝からチケットを求める人が列を成し、初回は満席となった。

 トークイベントではまず、作品の評価について語られた。木下さんは、番組への政治介入を受けてNHKが放送内容を改編したことや、朝日新聞が一部記事を取り消したことに触れ、慰安婦の議論そのものが「2000年代以降は閉塞(へいそく)感があった」と指摘。その上で同作が「多くの人に、こういう問題だったのかと驚きを与えてくれた。風通しを良くし『もっと語ろう』というメッセージを発信してくれたのではないか」と肯定的に見る。

 一方、相反する主張を闘わせる構成については「両論併記の形式には注意深くならなければいけない」と慎重だ。「人権を重視する立場からすれば当然の感覚である『戦争は絶対だめだ』という主張と、戦争してもいいんだという極端な主張を同列に並べる描き方。これでは両方が過激な人たちに見られ、その中間が『中立』と受け取られかねない」と懸念する。

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 作品は語りをそのまま見せることを重視しており、過激な言葉も飛び交う。慰安婦に否定的な論客が「フェミニストは不細工な人たち」と発言する場面に触れ、田村さんは「慰安婦問題の本質に根強い性差別主義がある」と強調した。

 これに対し、木下さんは「極端な歴史修正主義者だから性差別の考えに染まっているわけではなく、日本社会全体で克服できていない問題なのではないか」と問い掛ける。「性被害に遭う痛みへの想像力が働かない土壌が社会にある。だから、何十年も前の戦時中に性被害に遭った人たちの、晩年になってから力を振り絞って語られる言葉を素直に聞けない現状がある」と、今なおくすぶる問題の根幹にある課題を指摘した。

 作品にはソウル郊外の施設「ナヌムの家」も登場する。高齢のハルモニ(元慰安婦、おばあさんの意)が共同生活を送る。戦後70年以上たち生存するハルモニは減り、証言を聞くことは難しくなっている。田村さんは「生身のハルモニと出会い、人間の尊厳を取り戻す過程を目の当たりにすることで、解決しなきゃいけない問題だと実感できる。ただ、ハルモニがいなくなった後が問題だ」と危機感を募らせる。木下さんは「ハルモニによって語られたことや分かった事実を記録し、継承していくことがとても大事だ」と訴えた。

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 KBCシネマは21日まで上映予定。九州では7月までに佐賀、大分、宮崎で上映される。

【ワードBOX】戦時下の性暴力

 戦地や紛争地で、民間人らが兵士や戦闘員などから受ける性被害。紛争下のコンゴ(旧ザイール)で、被害女性の治療と生活支援に尽力する産婦人科医デニ・ムクウェゲ氏(64)と、過激派組織「イスラム国」(IS)による性暴力の被害体験を世界に発信する人権活動家のイラク人女性ナディア・ムラド氏(26)が昨年のノーベル平和賞を受賞し、戦時下では性暴力が家族や社会に深刻なダメージを与える「武器」としても利用される実態が、国際社会に知られるようになった。旧日本軍の従軍慰安婦問題を巡っては、国連人種差別撤廃委員会が昨年8月、「被害者中心の取り組みによって持続的な解決を図る」ことを日本政府に勧告した。

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