香港の民意、政府方針覆す 逃亡犯条例改正延期

西日本新聞 国際面

 【香港・川原田健雄】香港政府が民意の激しい抵抗を受け「逃亡犯条例」改正の先送りに追い込まれた。政府側は「改正の撤回ではない」と否定するが、延期期限は示さず、事実上の棚上げとの見方も広がる。抗議行動を続けてきた若者たちは「撤回までデモをやめない」と勢いづく。

■行政長官「市民と話し合う」

 「私のやり方が良くなかった。それは認める。市民と話し合って信頼を取り戻したい」。15日、香港政府本部の記者会見場。詰め掛けた国内外の報道陣を前に、林鄭月娥行政長官は硬い表情で釈明を繰り返した。

 条例改正を巡っては民主派だけでなく、地元経済界からも「中国企業とのビジネス上のトラブルが刑事事件化されかねない」と異論が続出。国際社会にも懸念が広がっていた。9日には1997年の香港の中国返還以降、最大規模となる103万人(主催者発表)の反対デモが発生。12日のデモ隊と警察の衝突で81人の負傷者が出て政府の対応に批判が広がると、2020年に立法会(議会)選挙を控える親中派議員の間でも延期論が浮上した。

 一方、林鄭氏は会見で「改正案の内容自体は良い」と重ねて強調し、将来の改正に意欲を示した。改正案には中国政府も支持を表明してきただけに、完全撤回はデモや国際世論に屈した印象を与え、習近平指導部のメンツをつぶしかねない。今月末の20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)で習氏が批判されるのを避けるため、中国政府が審議延期を香港政府に指示したとの見方も出ている。

 中国は10月に建国70年の節目を控えており、習指導部は香港の「反中国・反共産党」の動きが本土に波及しないよう神経をとがらせる。香港政府を通じて民主派への締め付けを強める可能性もある。

■若者「あくまで撤回要求」

 「審議先送りはデモの成果だが、勝利ではない。あくまでも撤回を求める」。立法会周辺で抗議集会に参加していたリーさん(30)は語気を強めた。「政府は延期で怒りを鎮めようとしているけど、だまされない」。近くで大規模デモ再開に備えて物資を管理するボランティアのババさん(30)も政府への不信感をあらわにした。

 デモの参加者が膨らんだ背景には交流サイトの影響が指摘される。民主派の立法会議員、区諾軒さん(31)によると、メッセージが暗号化される通信アプリ「テレグラム」のグループチャットには3万人近くが登録。デモ参加者は「犬がけんかしている」などの隠語で警察とデモ隊の衝突を伝えて応援を促したり、食料や救援物資の場所を教え合ったりした。「デモに参加したことがない人でもサイトを通してバリケードの作り方を学べる。リスクを負って参加している意識も共有できる」と効果を指摘した。

 民主選挙の実現を求めた14年の大規模デモ「雨傘運動」では、対話重視の民主派が過激な行動に出る学生を「暴力的だ」と非難するなど連携が取れず、最後は当局に強制排除された。今回は民主派と学生が緩やかに協力。学生らが警察と衝突した際も民主派は批判せず内部分裂を避けた。「この5年で反省した。団結しないと何も勝ち取れない」と区さんは訴えた。

 民主派の重鎮で元立法会議員の李柱銘さん(81)は「若者たちは将来の香港を中国の一都市にはしたくないという思いで行動している。過激な行動も自由や人権を守りたい一心からきている。その姿を受け入れ、尊重したい」と語った。

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