覚醒剤1トン押収 薬物汚染拡大に歯止めを

西日本新聞 オピニオン面

 一度に1トンを押収とは驚くべき量である。海外からの密輸が横行し、日本社会で違法な薬物がまん延していることの証左でもあろう。事件の全容解明を進めるとともに、水際対策をはじめとした根絶への取り組みを改めて強化する必要がある。

 静岡県の海岸で先日、小型船から覚醒剤約1トンを陸揚げしようとした中国籍の男らが、警視庁などに逮捕された。覚醒剤が一度に押収された量は、2016年に沖縄・那覇港で発見された597キロが過去最多だった。それを大きく上回る量である。

 密輸(関税法違反)が絡んだ覚醒剤の年間押収量は、16年1501キロ、17年1159キロ、18年1156キロと、史上初めて3年連続で1トンを超え、深刻な事態とされていた。そうした中、今回は年間押収量に匹敵する覚醒剤が発見された。1トンは末端価格で600億円、使用回数で3330万回分に相当する。

 男らは八丈島近海まで別の船で運ばれてきた覚醒剤を小型船に積み替えたとみられている。「瀬取り」と呼ばれる手法だ。現場の海岸では以前から不審船が目撃されていたという。警察などによる内偵、張り込みが功を奏した。しかし「氷山の一角」とみるべきだろう。

 近年は手口が多様化している。昨年は航空旅客・貨物、クルーズ船旅客、国際郵便による密輸で計229キロが押収された。仕出し地もアジア、欧米、中東など広域に及ぶ。大麻、コカインなど他の薬物も計337キロが押収されるなど、大量流入している。裏を返せば国内にそれだけ需要があり、密売組織が暗躍していることを示唆する。

 覚醒剤の使用・所持での摘発者は、年間1万人前後で推移している。最近も霞が関の官僚2人が相次いで逮捕され、衝撃が走った。大麻は若い世代で広がり、昨年の摘発者は過去最多の3578人に上った。「体には無害」との誤った情報が流れていて、安易に手を出す人が多い。売買はインターネット上でも行われ、汚染を広げる要因になっている。

 薬物の怖さは不断に訴えていく必要がある。依存性が強く、幻覚症状などによる事故や犯罪が絶えない。治療や社会復帰が難しく、再犯例も多い。密売には暴力団が関わり、膨大な利益を得ている疑いが強い。薬物需要の背景として、現代人のストレスや孤立感などを指摘する声もある。総じて見れば、社会病理の連鎖、悪循環である。

 国は啓発教育の強化、社会復帰支援、密輸摘発の国際連携などを進めている。私たちもその取り組みに参画する意識が必要だ。社会全体で薬物汚染に歯止めをかける機運を広げたい。

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