不登校(3)揺れる親 期待が重荷に

西日本新聞

 娘の心中を思うと、今もいたたまれない気持ちになる。福岡県に住む60代の弘さん=仮名=は、娘が毎日泣いていた中学1年のころを思い出す。元妻の激しい気性が原因だった。

母娘が口論 悩める父

 小学校は皆勤出席。元妻の勧めでバイオリンを習い、塾に通った。しかし受験競争を乗り越えて進学した私立中学には行き渋った。「気が抜けた」らしかったが、娘は小学校高学年から元妻との口げんかが絶えず、入学日の朝もけんかして式典を欠席していた。

 元妻の行動は徐々にエスカレートしていく。毎朝、自室でじっと布団にくるまる娘を引きはがし、家から閉め出して学校に追い立てた。娘が抵抗すると殴り、包丁を突きつけたこともあったという。

 思い通りにならない娘にいら立ち、感情的になっているようだった。弘さんが話し合おうとしても、元妻は「20歳までは親の言うことを聞くべきだ」「あなたが優しくするから悪い子になる」と聞く耳を持たなかった。

 弘さんは仕事に出るふりをして家の外で待機し、泣きながら出てきた娘を落ち着かせた。「無理して学校に行かんでいいよ」。ただ、娘に居場所はなく、遠回りしながらの登校に遅刻が重なった。

転居、離婚、突き放す学校

 娘の担任は毎朝、出欠や遅刻の連絡をしてくるよう弘さんに求めてきた。事情を説明し何らかの配慮や支援を期待する弘さんに、担任は冷たく突き放した。「ここは選ばれた人が来る学校。来たくなければ公立中に転校すればいい」

 その後も娘に冷水を浴びせて風呂に閉じ込めるなど元妻の暴力は続いた。いつも弘さんが家にいない時間帯に起きていた。弘さんは行政などの相談窓口を訪れ、警察からは「即、別居を」と強く勧められた。離婚を決意し、その年の夏、2人で新居に移った。

 元妻は娘を取り戻そうと裁判所に訴えた。娘が遅刻せずに通えるようになった学校にも出向いてきた。校内で母娘が言い争い、追いかけ回す姿は誰の目にも奇異に映った。学校からの連絡を受けて駆け付けた弘さんが見たのは、色を失い泣きじゃくる娘の姿だった。

 「あれがお母さん?」「何しよったと?」。翌日、無理して登校した学校で予想された友人たちの問い掛けは娘の心をえぐった。娘は学校に行けなくなった。

対話を重ね「待つしか」

 自室にこもり、ファンタジーの本やゲームに没頭する娘。弘さんはどう接していいのか分からなかった。無理強いはしないと決めていても、心の中では期待した。「今日は学校に行ってくれるかもしれない」。毎日娘の弁当を作り、家にそっと置いて仕事に出た。

 娘の将来への不安に元妻との離婚調停。元妻は「夫はアルコール依存症」といった言いがかりすらつけてきた。嵐のような日々に、弘さんは精神を病んだ。

 救いの手を差し伸べてくれたのは進級した娘の2年時の担任だった。自宅を訪れ娘に明るく接し、不登校を経験した子どもがいる保護者と話す場も紹介してくれた。子どもの自殺未遂、厳しい父親に不登校を隠す母親…。「自分だけじゃない」と、娘を学校に通わせていない罪悪感から解放されて気持ちが軽くなった。

 聞いた話、感じたことを娘には正直に伝えた。テレビ番組など何げない会話に努め、友人や親戚との食事にもできるだけ連れ出した。娘の表情は次第に和らいでいった。

 「高校に行ってやり直したい」。3年生になり、そう訴えてきた娘に心が震えた。中学校を不登校のまま終わった娘も現在、高校3年。大学進学を見据え、日常を送っている。

 子どもの人生に親の果たす役割は大きい。ただ、心に傷を負った子どもとの距離感には多くが苦悩する。前向きに生きようとする娘に弘さんは思う。「先が見えなくても、親はひたすら待つしかないんですよね」

◆学校外に相談窓口―不登校の児童生徒支援

 不登校の児童生徒には学校の校門を通ること自体が強いストレスになることもある。そのような子どもたちを支え、保護者が相談できる公的・民間機関は各地に設置されている。

 適応指導教室(教育支援センター)は、在籍校の復帰支援を目的に自治体の教育委員会などが設置。教科の学習指導や体験活動などを行っている文部科学省の2017年度調査で全国の63%に当たる1142の自治体が整備している。

 教育相談所は自治体の教育委員会が設置し、心理士や教職経験者らが勤務。不登校などの相談に応じ、カウンセリングが受けられる。子ども家庭支援センターは、子育ての心配や子どもの悩みごと、虐待などの相談に乗る。

 精神保健福祉センターは、心の健康や病気、依存症、ひきこもりなどの相談を受け付け、家族の支援などを行っている。病院・診療所など医療機関の中には思春期の心身疾患を専門にするところもある。

 民間団体では、不登校の経験者や家族などによるさまざまな支援団体が各地に存在。民間が自主運営し、学習指導要領にはこだわらず、個別の児童生徒の居場所づくりや学習支援に取り組むフリースクールは、法律上の学校ではないが、在籍校の校長判断で在籍校への出席扱いにすることができる。

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