デモ支える「バナナ」 相本 康一

西日本新聞 オピニオン面

 香港島の中心部、アドミラリティ(金鐘)には、香港政府や立法会の庁舎が並ぶ。中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案を巡り、若者らと警官隊が衝突した場所だ。

 2014年の大規模デモ「雨傘運動」の際も、民主化を求める若者たちは計79日間、同じ場所を占拠した。

 取材で訪れた当時、座り込む人々の目と鼻の先に、中国人民解放軍駐香港部隊のビルがあるのを見て驚いた記憶がある。警官隊とのにらみ合いが続く中、ビルの多くの窓には夜通し電気がついていた。

 「もし人民解放軍が強制排除に乗り出したら…」。話を聞いた人たちは、民主化運動を武力弾圧した天安門事件(1989年)を思い浮かべていた。今回のデモ参加者も同様だろう。直接対峙するのは香港政府だが、本当の相手は、香港から2千キロほど離れた北京の共産党指導部である。

 150年余り続いた英国統治を経て、中国に返還されて今年で22年。「一国二制度」の香港は実に複雑な都市だ。

 香港トップの行政長官を決める選挙は、一見、日本と変わらない。候補者は遊説し、討論会に出席する。メディアは世論調査の結果を報じる。

 それなのに投票権を持つのは産業界代表ら1200人だけ。支持率が高い候補者が選ばれるとは限らず、共産党指導部の意向に左右される。「民主国家と専制主義国家、二つのやり方が混在している。世界史的にも例がない」と、香港の大学研究者は言う。

 そんな矛盾を抱えつつ、法の支配や言論の自由、司法の独立を何とか保とうとしてきた。16日のデモに200万人近くが集まったのは、条例改正で自由が侵され、香港らしさが失われてしまうという焦りが世代を超えて高まっているからだろう。

 地元の人に、香港人は自らを「バナナ」に例えると聞いた。肌の色は黄色でも、一皮むけば白人のように白い-。否定的なニュアンスで使われることもあるようだが、自由や人権といった、西洋では当たり前の価値観が浸透していることを意味する。

 中国マネーの恩恵を受ける親中派経済人にも取材した。過激な香港独立論には眉をひそめても、手放しで中国化を歓迎する人はいなかった。「香港で生まれた私たちにとって自由は元来、持っている権利。中国とは違う」「香港は中国の植民地になっている」

 デモを受け、条例改正を延期した行政長官は「市民に失望と悲しみを与えた」と謝罪した。実利優先の経済人も含め「バナナ」であることに変わりない。 (社会部次長)

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