年金問題と政府 逃げずに論議深めてこそ

西日本新聞 オピニオン面

 参院選を控えたこの時期に、政府や与党にとっては「不都合な報告書」だったのだろう。

 だが、大臣が自ら諮問した審議会の報告書を受け取らないとは無責任だ。「なかったことにする」という姿勢に至っては乱暴に過ぎる。国民の関心が高まったのを受け、年金論議を深める好機とすべきではないか。

 金融庁の金融審議会が公表した老後資金報告書のことだ。正式名称は「高齢社会における資産形成・管理」という。

 総人口が減少する一方で長寿化が進行し「人生100年時代」を迎える中で、現役期からの資産形成の重要性を訴える報告書だ。問題となったのは、95歳まで老後の生活を送るには夫婦で公的年金以外に2千万円の蓄えが必要-とした試算である。

 麻生太郎財務相兼金融担当相は、この報告書を受け取らないと表明した。なぜか。麻生氏は「表現の仕方に問題があった」「政府のスタンスとは全く異なる」などと説明している。

 そうだろうか。試算は厚生労働省など政府が公表したデータを下敷きにしている。「毎月の不足額の平均は約5万円」という数字が問題視されたが、報告書は「この金額はあくまで平均の不足額から導き出した」「不足額は各々(おのおの)の収入・支出の状況やライフスタイル等によって大きく異なる」など注意を喚起している。「表現の仕方」が問題なら、受け取って修正の在り方を議論すれば済む話だ。

 「貯蓄から投資へ」と促す政策はアベノミクスを掲げる安倍晋三政権の基本姿勢であり、「政府のスタンス」を持ち出して「全く異なる」と一刀両断にするのは無理がある。麻生氏も報告書の公表直後は「100歳まで生きる前提で(退職金などを)考えておいた方がいい」などと評価していたではないか。

 共同通信社の世論調査で金融担当相の受け取り拒否について「問題だ」とする有権者が7割を超えたのもうなずける。

 さらに公的年金制度について「信頼できない」という回答が6割以上を占めたことを深刻に受け止める必要がある。

 野党は「安倍政権の隠蔽(いんぺい)体質」と指摘し、3月の予算成立後は衆参とも開かれていない予算委員会の開催を求めている。

 これに対し、自民党は「報告書はないので、審議の対象にならない」と拒否している。驚くべき論法だ。「受け取らない」のは国会で批判をかわすためだったと認めたも同然である。

 野党にも注文がある。政府の失態を追及するのは当然としても、国民が頼りとする年金の問題を政争の具とするのは感心しない。建設的な年金論議を有権者は期待している。

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