見守り、どこまで マンションの住人が認知症 トラブルに 多くの目必要だが 管理組合どう関与

西日本新聞 くらし面

福岡市のマンションで、住人の鍵を保管したボックスを操作する管理人の三原朋子さん 拡大

福岡市のマンションで、住人の鍵を保管したボックスを操作する管理人の三原朋子さん

 分譲マンションに住む人が年を取って認知症になり、徘徊(はいかい)やぼや、水漏れなどのトラブルを起こすケースが出てきた。集合住宅のため近隣に影響が及びやすい一方、管理組合は敷地や建物の維持管理が役割で、個人の事情に関与することをためらいがちだ。居住者は全国的に高齢化しているものの、玄関がオートロック式だと地域の目が行き届きにくい事情もある。誰がどう支えればいいのか。

 管理人室のモニターに、エレベーター前で立ちすくむ高齢の女性が映っていた。福岡市のマンション。管理人の男性(73)は巡回を装って歩み寄り、声を掛けた。「どうしたとね?」

 女性は自室に戻るのに、複数あるエレベーターのどれに乗るか分からなくなった。男性は認知症とみて、動揺させないよう玄関まで案内。過去には認知症の人が4、5人おり、電子レンジを停止する方法が分からず助けを求めた人もいた。

 男性は認知症の人や家族を支える「認知症サポーター」になっている。居住者に疑いがあると、家族に教えて治療につなげる。管理組合の業務を担う理事会は、支援が必要な高齢者の名簿を作って緊急時に備える。住人の懇親の場も多い。

 「認知症の兆候は同居の家族でも分からないことがある。多くの目で見守れば気付きにつながり、トラブルも減る」と男性は語る。

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 マンション住人の高齢化は、国土交通省が5年ごとに実施する「マンション総合調査」に表れている。2018年度は世帯主のうち60代と70代以上が半数を占め、1999年度のほぼ2倍に。70代以上は18年度、22%にも上った。

 子どもの独立後、年齢を重ねて一戸建て住宅の管理が難しくなり、マンションに住み替える人が出ているのも背景にあるようだ。

 こうした傾向で、認知症によるトラブルは後を絶たない。他人の家のチャイムを鳴らして回ったり、共用部分で排せつしたり。ガスこんろの使い方を誤るぼやや、水漏れを起こすことも。管理費の滞納もある。管理人や近隣住民への暴言、暴力も報告されている。

 一方、住戸の所有者でつくる管理組合が、どこまで支援に立ち入るかは難しい。行政の担当者や民生委員が高齢者の見守りで訪れても、玄関がオートロック式だと、立ち入りを渋る管理組合もあるという。

 神奈川大の角田光隆教授(民法)は「見守り時にオートロックを開けられるように、行政や民生委員、管理組合、管理会社が解錠する方針を事前に決めておくことが必要」と指摘する。

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 新たな試みも始まっている。福岡市の別のマンションでは、住人のうち希望者の鍵を管理人室で預かっている。管理組合が約30万円をかけて収納ボックスを置き、鍵を保管。異変があると専用のカードキーでボックスを開け、中から鍵を取り出す。カードキーは管理人や理事会の役員などが持ち、どの鍵で開けたか記録されるようになっている。

 ここでは以前、認知症の人が何度も救急車を呼ぶことがあった。別の高齢者宅ではガスの臭いがし、消防隊員がガラスを割って中に入ったこともある。預かるのは現在、全約40戸の3分の1だが、管理人の三原朋子さん(53)は「緊急時に対応できる安心感がある」と効果を語る。

 全国では他にも、マンション内に管理組合と別に「自治会」をつくり、介護予防の体操やお茶会を企画して、認知症予防や見守りにつなげる例がある。非常時に備えて「要支援者名簿」を作り、高齢者に緊急連絡先やかかりつけ医、常備薬、既往症などを書いてもらうケースもある。

 NPO法人「全国マンション管理組合連合会」(東京)によると、認知症の住人が周囲の支えで理事会の理事になり、社会参画することで症状の進行を食い止める例があるという。

 オートロックで遮られ、地域の目が届きにくい住環境だからこそ、管理組合の主体的な支援を提案する声もある。NPO法人「福岡マンション管理組合連合会」(福岡市)の松井宏行理事は「管理組合として『個人の問題だから』と放置できない時代になった。何ができるか話し、支援を充実させれば、空き部屋ができても入居希望者が出る」と、マンションの価値向上につながると見る。

 角田教授はトラブルになる前の対応が必要とし、「自治体などに認知症サポーター養成講座をマンションで開いてもらい、病態や症状が出たときの行政のサポート、居住者がすべきことを知っておくことが大切。日頃から住人同士の交流があれば、早く症状に気付くし、医療や介護につなげられる」と指摘する。 

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