中朝、逆風回避へ接近 首脳会談 貿易摩擦、非核化膠着

西日本新聞 総合面

 【北京・川原田健雄、ソウル池田郷】20日の中朝首脳会談は、20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)が月末に迫るぎりぎりのタイミングで開催された。香港で起きた大規模デモや、米国との貿易摩擦などの逆風をかわしたい習近平国家主席と、非核化を巡る米国との交渉を進めて経済制裁緩和の糸口を探りたい金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長。共闘の思惑は合致するものの、米国の譲歩を導く活路を見いだせるかは不透明だ。

■交渉カード

 習氏が彭麗媛夫人とともに平壌国際空港に降り立つと、歩み寄った正恩氏が笑顔で握手。花束を手にした数千人が大きな歓声を上げた。その後の首脳会談で、習氏は時折笑顔を見せながら「(米朝対話は)国際社会が賛同し期待している」と述べ、北朝鮮の非核化に向けた姿勢を高く評価。正恩氏は「中国との協力を強化し、半島問題で新たな進展を得られるよう努力したい」と応じた。

 習指導部にとって最大の懸案は貿易問題などで対立する米国との関係。今回の訪朝は米国をけん制する意味合いが強い。

 米中の貿易摩擦は5月に協議が中断し、両国が追加関税をかけ合う事態に再び突入。中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)に対する米国の輸出規制を巡っても対立が深まる。さらに、トランプ政権は香港で起きた「逃亡犯条例」改正に反対する大規模デモをG20サミットで取り上げる構えをみせ、中国への揺さぶりを強めている。

 習氏の訪朝には、米朝の非核化交渉が行き詰まる中で、北朝鮮の後ろ盾として米朝交渉再開の橋渡し役を担い、悪化する対米関係の改善につなげたい狙いがある。正恩氏から非核化への前向きな言質を引き出せれば、G20サミットに合わせて開く米中首脳会談で、トランプ氏から一方的に貿易協議の譲歩を迫られる展開を回避できるとの思惑だ。

 ただ、中国は「段階的な非核化」に応じた経済制裁緩和に理解を示すなど北朝鮮の主張に近く、完全非核化を目指す米国との溝は深い。経済制裁にあえぐ北朝鮮の求めに応じて、中国人観光客の送り込みや食糧を中心とした人道支援に乗り出せば、逆に米国の反発を招きかねない。

 非核化が進まなければ、トランプ氏が「背後で北朝鮮を操っている中国のせいだ」と“中国責任論”を展開する恐れもある。米中首脳会談に向けて「北朝鮮カード」を切った習氏だが、どこまで効果的かはなお見通せない。

■政治ショー

 正恩氏にとっても足元の状況は厳しさを増している。ベトナム・ハノイで2月に開かれた米朝首脳会談では、非核化と制裁解除の範囲などを巡り双方の立場の違いが鮮明化。制裁長期化の懸念に加え、食糧事情の悪化も伝えられており、習氏との会談で国連制裁に違反しない形での支援を求める可能性がある。

 正恩氏はハノイ会談の決裂後、米朝交渉の仲介役となってきた韓国への批判を繰り返す一方で、4月にロシアを訪問してプーチン大統領と会談。東京大大学院の木宮正史教授(朝鮮半島地域研究)は「韓国の役割に限界があることが明確になり、中国やロシアとの関係強化に動いた」とみる。

 朝鮮戦争をともに戦い「血の同盟」と言われる中朝だが、昨年3月に正恩氏が訪中するまでは、核開発をやめない北朝鮮に中国がいら立ちを募らせ、関係は冷え込んだ。今回の会談も「事前交渉の時間が短く、政治ショーに終わる可能性もある」(韓国の政府系シンクタンク研究者)と懐疑的な見方もある。

 一方、習氏の滞在は21日まで1泊2日の予定。過去に国家主席として訪朝した江沢民、胡錦濤両氏はいずれも2泊3日だったため、中朝関係の希薄化を指摘する声もある。

   ◇    ◇

■米政府、習氏動向に注目

 米CNNテレビなどは20日朝(日本時間同日夜)、中国メディアの報道を引用して習近平国家主席が盛大な歓迎を受けて平壌入りしたと速報。北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長とも早速会談したと報じた。米国内では、トランプ大統領との首脳会談を月末に控える習氏が、難航する米中貿易協議の打開をにらみながら、非核化交渉が行き詰まる米朝間の橋渡し役として、どんな「建設的なメッセージ」(米政府高官)を発するかに注目が集まっている。

 米朝協議は2月の首脳会談後、膠着(こうちゃく)状態にある。だが、トランプ氏は北朝鮮が5月、短距離弾道ミサイルの発射実験を行っても問題視せず「正恩氏との関係は良好なままだ」と強調。3回目の首脳会談開催の可能性を否定していない。

 一方、トランプ氏は貿易協議で対立する中国に、輸入品へのさらなる高関税措置をちらつかせるなど圧力を強めているものの、対北朝鮮政策では「中国は協力的」と評価している。

 今回の中朝首脳会談の狙いについて、米国内のメディアや専門家は、習氏が正恩氏との緊密ぶりを示すことで、米朝間の調整役としての存在感を米側にアピールする点にあると指摘。習氏が米朝関係の改善に動く見返りに、米中貿易協議でトランプ氏の態度を軟化させ、譲歩を引き出そうとしているとの見方が広がる。 (田中伸幸)

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