「株主還元」なお火種に JR九州 提案否決 丁寧な対話求める声

西日本新聞 総合面

JR九州の株主総会には、480人の株主が出席した=21日、福岡市 拡大

JR九州の株主総会には、480人の株主が出席した=21日、福岡市

 21日に開かれたJR九州の株主総会で、大株主の米投資ファンドからの自社株買い提案が否決され、反対を呼び掛けてきた経営陣は安堵(あんど)の表情を見せた。一方、ファンド側はJR九州株を長期保有する意向を重ねて表明。市場関係者からは株主との丁寧な対話を求める声も上がる。経営陣は今後も公益性と株主還元の両立という難しいかじ取りを求められる。

 「まずは株主の皆さまに、多大なご心配とご不安をおかけしたことをおわびする」。総会で議長を務めた青柳俊彦社長は、今回の騒動について株主に陳謝した。

 発端は昨年末、JR九州の大株主に躍り出た米投資ファンド「ファーツリー・パートナーズ」がJR九州に対し、株価上昇などにつながる「自社株買い」を提案したと表明したことだ。

 総会前、ファーツリーは自社提案への賛成を呼び掛けるホームページを開設。対するJR九州は法人や個人株主に電話や手紙で連絡。反対の委任状提出を促した。JR九州からの電話を受けたという福岡県宗像市の男性株主(71)は「相当危機感を感じていたのではないか」と振り返る。

 ファーツリーの提案には他の米国ファンドなどが賛同したが、広がりを欠いたもようだ。総会にはファーツリーが欠席したため、質疑で自社株買いに触れた株主は13人中2人のみ。いずれも反対する内容だった。

 一方、この日の株式市場でJR九州の株価は総会終了直後から急落。一時200円近く値を下げ終値は前日比155円(4・46%)安の3320円だった。株主提案否決による投資家の「失望売り」とみられる。

 JR九州の株主は海外投資家が4割を占める。JPモルガン証券の姫野良太アナリストによると、日本の鉄道会社は優良不動産を多く持つ一方、海外投資家からは「効率的に活用できていない」とみられている。2016年に上場したJR九州は、国内の安定株主が多い同業他社に比べ「海外投資家に買われやすい状況にあった」という。

 姫野氏はファーツリーの提案を「資本効率の向上につながる正当な要求」とした上で、「JR九州は投資ビジョン、それに伴う結果を具体的に示して丁寧に説明すべきだ」と注文する。

 今後も海外投資家との緊張関係は続きそうだ。終了後の取材に青柳社長は「企業価値の向上という点で株主提案とは同じ方向を向いている。事業運営に生かしていく」と神妙な表情だった。

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■投資家が廃線要求も 西武鉄道

 米投資ファンドのJR九州に対する株主提案は、住民生活に密着した地方の鉄道会社の経営も、投資家の意向に左右される可能性があることを示した。今回は鉄道事業に直接触れた提案はなかったが、過去には他社で、海外の投資会社が廃線を求め沿線を不安に陥れた事例もある。経営への提案は、株主の正当な権利でもある。専門家は「JR九州にも今後、廃線を提案する株主が出ることは十分あり得る」と指摘する。

 2013年3月、西武ホールディングス(HD)は、筆頭株主の米サーベラスから西武鉄道の一部路線廃止を要求されたと公表した。サーベラスは「アイデアの一つで、要求ではない」と否定したが、沿線の埼玉県秩父市に住む高橋信一郎さん(81)は「地域に危機感が募った」と振り返る。

 高橋さんは当時、秩父商工会議所の会頭だった。翌4月に「西武鉄道を応援する会」を結成。会長に就き、路線存続の陳情や他の株主への協力依頼を続けた。活動は奏功。サーベラスは17年に全株を売却した。

 「住民が地域の鉄道の大切さを考える機会になった」と語る高橋さん。「住民の足がマネーゲームに翻弄(ほんろう)されるのを防ぐ規制が必要だ」と主張する。

 これに対し、国は「安全に支障が出ない限り、見守る」との立場。国土交通省幹部は「経営体力が株主提案で強化されれば、地域のためにもなる」と言う。

 人口減少や災害の頻発で、厳しさが増す地方鉄道の経営。関西大の安部誠治教授(交通政策)は「事業者と住民、自治体は、地域の鉄道の在り方について対話を進め、株主の理解を得ていく努力も必要だ」と話している。

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