「地主」責任 問う裁判 山本 敦文

西日本新聞 オピニオン面

 長崎県時津町の国道沿いに5月下旬、島原の農産物などを扱う直売所がオープンした。オーナーの松尾公春さん(62)にとっては「生き残りをかけた」戦いの橋頭堡(きょうとうほ)だ。

 「俺の相手は巨大だから。つぶされんごと、いろんな手を打っとかんとね」

 国営諫早湾干拓事業で造成された干拓農地(同県諫早市)の営農者で、潮受け堤防の開門を求めている。「俺はここで10年以上も頑張った。地主も応分の責任を果たせ」

 「地主」とは、農地を造成した国や、農地を国から購入して所有する長崎県を指す。

 全国の国営干拓地の多くは入植者に売却されている。耕作者が土地を所有するという戦後の農地改革が背景にあるが、諫干は特殊で、県農業振興公社が営農者を公募して5年ごとに利用権を更新する「リース方式」。規模拡大を視野に農地貸し出し規制を緩和した農業経営基盤強化促進法(1993年)が根拠だ。

 島原市で水産加工業や農業を営んでいた松尾さんは公募当時、「知事から毎日のように『干拓地は埋まるのか』と言われている」と嘆く県の職員に請われて入植を決めた。ただ、「優良」と宣伝された農地は水はけが悪く、冬は調整池から飛来するカモの食害に悩まされたが、「地主」は何も対策を取らなかった-。

 こう主張する松尾さんは、国などに損害賠償を求めて訴訟中。国は「カモが増えたなどの事実はない」と反論する。一方、公社は松尾さんの利用権更新を「提出書類の不備」を理由に認めず、昨年で契約を打ち切った。松尾さんは立ち退きを拒否し、こちらの争いも法廷に持ち込まれた。

 松尾さんは「地主」に異議を申し立てたが、負債を抱えたまま撤退した入植者は、この11年間で全体の4分の1以上に上る。漁業者との対立構図で見られがちな営農者にも諫干特有の悩みがある。

 その漁業者側に、国が開門を強制しないよう求めた訴訟で福岡高裁は昨年、判決で「漁業権は10年で消滅し、開門を求める権利も失われた」と断じた。国はその後、漁業者への漁業権優先割り当てを可能にしてきた規定を撤廃した。

 国の規制緩和策は市場原理重視の経営を求める。衰退する1次産業改革の一手段ではあるが、農漁業は風土と折り合いを付けながら息長く生きる人々の営みだと捉えれば、現場は違って見えてくる。最高裁は来月、福岡高裁の判断に関し弁論を開く予定だ。漁業権消滅を巡る判断の是非が一つの焦点との見方もある。

 豊穣(ほうじょう)の地で続く争いの背景に目を凝らす必要がある。 (諫早支局長)

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