「人工透析中止を望み、死亡」 波紋大きく 福生病院の事例、 医学会は判断支持

西日本新聞 医療面

森田満希子さん 拡大

森田満希子さん

船越哲さん 松田純さん

 今年3月、東京都の公立福生病院で女性患者=当時(44)=が人工透析を取りやめて死亡していたことが明らかになり「透析中止は適切だったか」と議論が起こった。日本透析医学会は5月末、透析をやめるとした女性の意思は固く「その意思が尊重されて良い事案」と病院側の判断を支持する調査結果を公表した。一連の議論は、現場の医師や患者にどう受け止められ、透析の在り方にどう影響していくのか。

 ●複数の選択肢と丁寧な説明を 人工透析を23年間受けた 森田満希子さん

 -福生病院の透析中止を巡る一連の報道や今回の日本透析医学会の声明をどう受け止めたか。

 「私も透析をやめたいと思ったことが何度もあるので、人ごとだとは思えなかった。声明を読む限り、患者の家族の聞き取り調査などはされていないようだ。病院側の情報のみに基づいて“患者不在”の状況で調査し、議論することにどんな意義があるのか疑問を感じる」

 「声明で分かることは限られているが、この透析を中止した44歳の女性は、冷静に判断できる精神状態だったのだろうか。精神的に追い詰められた上での申し出ならば、そう発言するに至った背景にこそ、目を向けてほしい。初めから透析を導入しないという選択は余命がわずかながんなどの終末期のケースに限るべきだと考える」

 -どんなときに透析をやめたいと思ったのか。

 「透析が壁となって仕事が見つからず、経済的な自立が難しかった。これからも家族や医療関係者の世話になると思うと苦しく、やめたいという考えにつながった。医療費削減の文脈で語られる“透析バッシング”も、世間から『生きるな』と言われているように感じてつらかった」

 -今回の声明では「医療者側の理解と、患者さん側の理解にはまだまだ大きな隔たりがある」と指摘されている。

 「透析の中止も含めた治療の方針については、信頼できる医師から複数の選択肢やそれぞれのメリット、デメリットについて丁寧に説明してもらうことが一番大事だと考える」

 「私も経験したことがあるが医師に冷たい言い方をされると、患者は二度と心を開けなくなってしまう。医師の一言は患者にとって影響力の大きいものだということを理解してほしい」

 -医師との信頼関係。これがなかなか難しい。

 「現在の病院の体制にも問題があると思う。医師は忙しすぎて、1人の患者としっかり向き合う余裕がない。看護師の裁量でできることを増やし、医師の負担軽減を考えてもいいのではないか」

 腎不全で21歳の時に人工透析を始め、44歳で腎移植を受けるまで続けた。現在も定期的に通院中。九州大大学院で「環境と医療政策」を研究。57歳。

 ●判断材料あれば医療の負担減 長崎腎病院理事長 船越 哲さん

 -長崎腎病院では2008年以降、透析中止が10例、そもそも透析を開始しない非導入が6例あった。

 「本人や家族の要望を受けて、主治医や精神科医でつくる倫理委員会で議論している。『意思は明確か』『抑うつ状態ではないか』『主治医以外の医師の賛同を得たか』など、10項目の独自のチェックリストを満たしているか、慎重に見極めている」

 -日本透析医学会は本年度中に透析中止などに関する新たな提言をまとめる。求めることは。

 「意思疎通ができなくなったときに備えて治療の方針を記しておく事前指示書については『原則として取得しておくこと』といった強い表現で言及してもらいたい。そうすればもっと普及するはずだ」

 「実際に中止や非導入を考える場合、患者や家族の精神状態や病状などの検討すべき項目が具体的に示してあれば、難しい決断を迫られる現場の負担は少し軽減されるのではないか」

 -事前指示書の取得に力を入れている。

 「当院では入院患者の95%以上から取得している。そのうち、終末期に透析の継続を望まないという人は6~7割に上る。ただ、中止を望む意思をどう実現するのか、難しい面もある」

 -どう難しいのか。

 「本人と意思疎通ができなければ、家族に『その時が来た』ということを伝え、本人の意思を踏まえた上で、決断してもらわないといけない。家族も冷静沈着ではいられずに『病院にお任せします』と言うことが多いが、私たちが決めるわけにはいかない。日頃から家族とも信頼関係を築いておくことの重要性を感じる」

 -透析中止や非導入は死に直結する。関わる医療者は精神的につらいのでは。

 「透析中止の判断を議論する会議には僧侶も加わっている。看護師が『死ぬのは怖いことでしょうか』と尋ねると、僧侶は『死ぬことは悪いことばかりではない。苦しみから逃れられる救いもある』と答えた。その言葉をずっと胸に留めている。責任の重い仕事だが、その人らしい最期を迎える手伝いをしていきたい」

 東京慈恵会医科大卒。東長野病院内科医長、米国立衛生研究所研究員などを経て、2011年から現職。日本透析医学会指導医。66歳。

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